「なんで梢は俺のことを敵視するのかなあ」

「そりゃあ、あんたのところがモーニングを始めたから敵視もするわよ」

 私はそう言うと、銀太の前にお冷とおしぼりを出す。

「ライバルっつーか」

 銀太はそう言うと、辺りをぐるりと見回してから、黙って水を飲んだ。

「何が言いたいのよ」

「いや。この時間に一組しか客がいないなんてマズいだろ」

「あんた含めたら二組よ」

「さっきはライバルって言っておいて客の数にはちゃっかり入れるのか!」

「そう。それとこれとは別だから。あ、その水は千円だからね」

「高すぎだろ! どんな水だよ!」

「あ、おしぼりは一回拭くごとに五百円ね」

「俺が拭いた後のおしぼりは高く売れるな」

 銀太がそう言ってにやりと笑ったので、私はそれを無視してメニューを差し出した。

「で、大繁盛中のそちらの店の手伝いはしなくていいの?」

「スルーやめてよ。俺が恥ずかしい」

 銀太は少し照れくさそうにメニューを受け取りながら、続ける。

「俺は休憩。まだモーニングの客が何組かいるけどピークは過ぎたよ。ってゆーか俺は大学生だからただのバイトだしな」

「いいよね。学生は気楽で。うちの経営状況の厳しさ、君には分かるまい」

「はいはい。苦労してるね。ってわけで、ブレンドコーヒー。あとプラス三百円でモーニングつけて」

「はい。かしこまりました」

 私はそれだけ言うとカウンターの奥へと引っ込んだ。
 本当に奴の使用済みおしぼりを売ってやろーかな。