街がクリスマスムード一色から、お正月に変わったかと思ったらバレンタインの文字があちこちで見られるようになってきた。

 銀太に酷いことを言ってしまって一ヶ月が経った。
 あれからモーニングは好評で、お客も少し増えてきた気がする。
 でも銀太には謝れていないし、まともに話してすらいない。

「はー。確定申告めんどー」

 私はそう呟いて鉛色の空を見上げる。
 胸のもやもやを全て確定申告のせいにしてみた。いや、だって実際に面倒だし。
 買い出しのついでに、コーヒーチェーン店ができるという場所へ行ってみた。
 前に見に行った時は、近づけなかったけれど今は随分と建物ができあがっている。

「ん?」

 私は思わず首を傾げた。

 工事中の建物は、なんだかやけにメルヘンな雰囲気で、おまけに外観のベース色がピンク。
 新しいタイプのカフェだろうか。
 ふと看板が目に入った。

 そこには『メイド喫茶まかろん 四月オープン!』と書かれてあった。

「……コーヒーチェーン店じゃない……」

 私が思わず脱力していると、背後から声が聞こえた。

「ごめん。常連さんが『都会の喫茶店ができる』って言ってたから早とちりした」

 振り返ると、銀太が立っていた。

「そりゃあ早とちりするよね。ちゃんと確認しない私も悪いし」

 私はそこまで言うと、こう口にする。

「ごめん。酷いこと言った」

「うん。本当だよ」

 銀太はそう言って笑った。

「そうだよね。許してもらえるかな?」

 私の言葉に銀太は少しだけ考えてから口を開く。

「とりあえず、お前んとこのモーニングが食べたい」

 私はとびきりのスマイルでこう言った。

「かしこまりました。幼なじみは特別プライスで千七百円になります!」