モーニングを食べ終えた常連客(兄)がコーヒーを啜ってから、思い出したようにこう言う。

「田中さんもまーくんも道子先生もみーんな、村雨さんとこの常連になっちまったけど、こんなに美味いパンが食べられるって分かったらこっちにも来てくれるよ」

「ちょっと! 兄さん! それを梢ちゃんに言っちゃダメでしょ?!」

 常連客(妹)が小声で兄を叱るがもう遅い。

「あー。『ペール』の常連になっちゃったんですか。それはしょーがないですよー」

 私はそう言って笑ってみたが、心の中は悲しさと悔しさでいっぱいだった。
 そして、ドアベルの音で反射的にそちらを見る。
 私は思わずフリーズした。
 よりにもよってこのタイミングで現れるとは……。
 銀太の顔を見た途端、常連客兄妹は普段は見せない素早さでお会計をして店を出て行った。

「え? なになに? なんか慌ててお客さん逃げていったけど梢なんかした?」

 銀太が笑ってそう言うので、思わずカチンときた。

「なんかしたのはそっちでしょ? うちの常連を取ったくせに」

「なにそれ。別に強引に奪ったわけじゃねーし。実力の差だろ」

 銀太の言葉は正論だ。
 正論だからこそ腹が立つ。
 怒りで頭が真っ白になって、思わずこう叫ぶ。

「『ペール』なんか潰れちゃえばいいのに!」

 そう言ってからハッとする。
 銀太はため息をつき、それからこちらに冷ややかな視線を浴びせた。

「そんなこと思ってたのかよ。最低だな」

 それだけ言い放つと、店を出て行った。
 カランコロン、という音だけが店に響く。
 本当に私、最低だ。
 一番、言っちゃいけない台詞なのに……。