木々のざわめく音に、枝や葉の間から顔を出す空に輝く星たち。
 都会にいたから気づかなかったけど、星ってこんなにあるんだって、あの時と同じことを思った。
でも、その光に負けないくらい、堂々とひと際目立つ満月の月が浮かんでいた。
 自然描写が多い翔奏が、好んでよく使っていた月が、私も好きだった。
 たぶんこれも、翔奏の影響だろう。
 私は雑誌のインタビューで、翔奏が語っていたことを思い出した。
 翔奏は、平安時代の人は、たった十七文字で、思いや風景を表現したりしてすごいって言っていた。
 だから自分も、好きな自然を使って、自分の想いを表現したい。今も昔も自分の気持ちを正直に伝えるために、歌を使っているけど、俺はまだまだ未熟だから、一七文字にまとめられないですねと。それを読んだ時、くすりと笑う翔奏が目に浮かんだけれど、歌に込める真剣な想いは伝わった。
 だから、私も負けないように小説をかいた。音楽も小説も、誰かの想いが込められて作られたのは変わりない。
 平安時代の人たちよりも、翔奏よりも、私は文字数は多いけれど、小説に込める想いは、きっと変わらない。
 誰かに自分の気持ちや考えを伝えたい。
 でも、その前にたぶん、私は自分の気持ちを整理しなくてはいけない。
 私は階段を上り終えると、一つ息を吐いた。途中からはゆっくり上ったはずなのに、息が乱れてしまった。
 月明かりに照らされた先には、飛び石が点々とあり、その先には古ぼけて今は使われていないであろうお寺があった。
 その前に黒髪で、細身の男性の後姿が見えた。
 智歌先輩と同じくらいの身長で、闇に溶けるみたいに真っ黒な服を着ていた。
 でも、月の光がそこだけをぼんやりと照らしていて、その姿がはっきりと見える。
「……カナ」
 私は、彼との今までの距離を縮めるように、その後ろ姿に近づいた。

  廃墟のように立ち尽くす寺の前で、俺はぼんやりと空を眺めて立っていた。
 もうすぐちぃがここに来る。智歌は、必ず彼女を連れてきてくれる。
 そう信じていても、その姿を見るまでは、このもやもやする気持ちは、晴れはしない。
 ライブで見たちぃは、当たり前だけど、俺の知っているちぃよりも身長も伸びて大人びていた。
でも昔のおもかげはちゃんと残っていて、本当に彼女は生きていたんだってほっとしたし、嬉しくて堪らなかった。
「……藤沢…翔奏……さん?」