「いいから言って」
ちぃの鋭い声が飛ぶ。
どうして、今更言わなきゃいけないんだよ。悪態を心の中で呟いても、ちぃは黙って、俺の言葉を待っている。このまま言わずに立ち去りたい気分だけれど、真っすぐ見下ろすちぃの姿に気圧されて、視線を外した。
「ちぃ、俺、……お前のことが」
「先輩?」
本当の気持ちを言いかけたとき、上から柔らかい声が降ってきた。
「深桜か?」
「どうかしたんですか?」
顔を上げると、不思議そうに顔を傾けている深桜の姿があった。
 結局俺には、自分の気持ちを伝えることは許されていないのだ。
 もしかしたらと、一瞬でも思った自分が嫌だ。何を期待しているんだと、自分にため息を吐く。
 もう俺の心は、ズタズタだ。
「ごめん。とにかく翔奏が待ってる。だから行って来い。俺、ここで待ってるから」
俺は無理やり彼女に笑って見せた。嘘は吐かないとか言いながら、俺はこうやって我慢して笑うしかなかった。
 本当は心の中で「行くな」って叫んでる。でももう邪魔はしたくない。これ以上、嘘を重ねても何の意味もない。
 二人の時間を引き離した俺には、もう謝罪すら許されないところまで来ている。
 だからこれが本当に最後の嘘だ。