「先行発売って言っても、支払いして送られてくるのに時間がかかるんだ。電話やネットが繋がって、購入できるようになっても、チケットがすぐ手に入る訳じゃない。だいたいは、ライブの日の二週間前くらいに送られてくるんだよ。それなのに、どうして俺はあの日、チケットを持ってたと思う?」
「えっとそれは……」
「俺が直接、翔奏から貰ったんだよ」
その言葉に深桜は一歩下がって、俺から遠ざかった。正確に言えば、元彼を経由してだが、そんなことは深桜は知らなくていい。
肌寒い風が、俺たちの間を通り過ぎていった。
「そんなの嘘です! だって」
「俺と翔奏は、昔からの知り合いなんだ。近所に住んでた。俺の実家の隣りの空き家は昔、藤沢翔奏が住んでたんだ。それで、俺たちは昔からの知り合いってわけ。だから、デビュー前のCDとか持ってたり、こうやって販売前にチケット持ってたりしたわけだ。他にもいろいろ考えればあるだろ? 不自然なことが」
深桜も察することが、頭に浮かんだのだろう。俺たちの間であった会話を振り返って、不自然な言動の数々に思い当たる節があることに……。
「嘘ですよ。そんな、先輩冗談は」
「冗談なんかじゃない! 俺はもう嘘はつかないって決めたんだ」
俺の叫ぶような声に、深桜はビクッと身体を震わせた。
「じゃあ確かめてくるといい。俺が言っていることが嘘か本当か」
「でも先輩」
「いいから行けって! お前、翔奏が好きなんだろう!?」
俺が叫ぶように言ったからだろう。まるで俺から距離を取る様に、深桜は数段石段をかけ上がった。
もう我慢の限界だった。自分でも平常心が、どんどん失われているのが分かる。
「どうして先輩は、今まで黙ってたんですか? どうして今になって教えてくれたんですか?」
「……そんなの言えるか」
吐き捨てるように言うと、俺は俯いた。これ以上は、もう彼女を見ているのも苦しい。早くその階段を上ってくれないと、俺は自分を保てなくなる。
「どうしてチカはいつもそうなの? はっきり言ってくれないと分からないよ!」
「……ちぃ?」
その責めるような声に、俺は我に返ったように顔を上げた。月明かりに浮かぶ深桜の顔が、幼いころの彼女の姿と重なって見えた。
「ねぇ。チカの気持ち教えて。ちゃんと知りたいの」
「……なんだよ。あの時だってちぃは、翔奏を選んだじゃないか。今更俺の気持ちなんて」
「えっとそれは……」
「俺が直接、翔奏から貰ったんだよ」
その言葉に深桜は一歩下がって、俺から遠ざかった。正確に言えば、元彼を経由してだが、そんなことは深桜は知らなくていい。
肌寒い風が、俺たちの間を通り過ぎていった。
「そんなの嘘です! だって」
「俺と翔奏は、昔からの知り合いなんだ。近所に住んでた。俺の実家の隣りの空き家は昔、藤沢翔奏が住んでたんだ。それで、俺たちは昔からの知り合いってわけ。だから、デビュー前のCDとか持ってたり、こうやって販売前にチケット持ってたりしたわけだ。他にもいろいろ考えればあるだろ? 不自然なことが」
深桜も察することが、頭に浮かんだのだろう。俺たちの間であった会話を振り返って、不自然な言動の数々に思い当たる節があることに……。
「嘘ですよ。そんな、先輩冗談は」
「冗談なんかじゃない! 俺はもう嘘はつかないって決めたんだ」
俺の叫ぶような声に、深桜はビクッと身体を震わせた。
「じゃあ確かめてくるといい。俺が言っていることが嘘か本当か」
「でも先輩」
「いいから行けって! お前、翔奏が好きなんだろう!?」
俺が叫ぶように言ったからだろう。まるで俺から距離を取る様に、深桜は数段石段をかけ上がった。
もう我慢の限界だった。自分でも平常心が、どんどん失われているのが分かる。
「どうして先輩は、今まで黙ってたんですか? どうして今になって教えてくれたんですか?」
「……そんなの言えるか」
吐き捨てるように言うと、俺は俯いた。これ以上は、もう彼女を見ているのも苦しい。早くその階段を上ってくれないと、俺は自分を保てなくなる。
「どうしてチカはいつもそうなの? はっきり言ってくれないと分からないよ!」
「……ちぃ?」
その責めるような声に、俺は我に返ったように顔を上げた。月明かりに浮かぶ深桜の顔が、幼いころの彼女の姿と重なって見えた。
「ねぇ。チカの気持ち教えて。ちゃんと知りたいの」
「……なんだよ。あの時だってちぃは、翔奏を選んだじゃないか。今更俺の気持ちなんて」