この光景も、最初で最後になるかもしれない。本当は深桜と一緒に並んでもよかったけど、翔奏で頭がいっぱいになっている深桜の隣りにいるのも、虚しいだけだ。残された時間は刻々と無駄に過ぎていってしまうが、俺はこの光景を目に焼き付けるように端々まで目を配った。
会場の外まで来てみると、少し離れたところで海賊版を売っているやつらの姿も見える。それを嫌悪の瞳で見据える者や、不思議そうに見つめて通り過ぎていく来場者を、ぼんやりと眺めた。
外に出ても係員のメガホンや人々の声が騒がしく響いている。いったいどこからこんなに人が集まったのだろうとため息が零れ、改めて翔奏はすごいやつだと思った。
そうしたら、いきなりポケットに入れていたスマホが震えた。深桜にしては、早すぎる気がしたけれど、俺はスマホを確認した。
その相手は翔奏からで、思ってもいない相手に驚きながらも、俺は即座に通話ボタンを押し耳にあてた。
「どうしたんだよ。急に」
「智歌――あ……」
さまざまな声に邪魔されて、翔奏の声が聞こえなかった。
俺は、急いで喧騒から抜け出すために、走った。
「どうしたんだよ。急に。いきなり電話なんかして。リハーサルとか大丈夫なのかよ」
いつもより声を張り上げて、また同じことを口にした。
ここならきっと電話できるだろう。遠くで叫ぶ係員の声が微かに聞こえるだけで、周りにあまり人はいない。
「ごめん。今打ち合わせも終わって、控室に移動するとこ。それで窓から覗いたら、智歌の姿が見えたから」
「よく俺だって分かったな。あんな人だかりの中見つけるなんて」
「智歌はあの場所で浮いてたから。だってさ、一人だけグッズには目もくれず、それに並ぶ人たちを遠くから見てたから」
「なるほどな。確かにそれは、俺に間違いない」
二人して微笑を零して、小さな笑い声を上げた。
「そんなに俺のグッズに興味ない? 少しだけだけど、俺がデザインしたTシャツとかストラップとかあるんだけど」
「そうなのか? それでみんなあんなに必死になって並ぶわけか。……あっ、別にいらないっていうわけじゃないんだぞ。でも、いつでも手に入る気がしてさ。それに俺が、お前のグッズとか持ってたら、なんか気持ち悪くないか?」
「確かに。なんか気持ち悪ぃ」
会場の外まで来てみると、少し離れたところで海賊版を売っているやつらの姿も見える。それを嫌悪の瞳で見据える者や、不思議そうに見つめて通り過ぎていく来場者を、ぼんやりと眺めた。
外に出ても係員のメガホンや人々の声が騒がしく響いている。いったいどこからこんなに人が集まったのだろうとため息が零れ、改めて翔奏はすごいやつだと思った。
そうしたら、いきなりポケットに入れていたスマホが震えた。深桜にしては、早すぎる気がしたけれど、俺はスマホを確認した。
その相手は翔奏からで、思ってもいない相手に驚きながらも、俺は即座に通話ボタンを押し耳にあてた。
「どうしたんだよ。急に」
「智歌――あ……」
さまざまな声に邪魔されて、翔奏の声が聞こえなかった。
俺は、急いで喧騒から抜け出すために、走った。
「どうしたんだよ。急に。いきなり電話なんかして。リハーサルとか大丈夫なのかよ」
いつもより声を張り上げて、また同じことを口にした。
ここならきっと電話できるだろう。遠くで叫ぶ係員の声が微かに聞こえるだけで、周りにあまり人はいない。
「ごめん。今打ち合わせも終わって、控室に移動するとこ。それで窓から覗いたら、智歌の姿が見えたから」
「よく俺だって分かったな。あんな人だかりの中見つけるなんて」
「智歌はあの場所で浮いてたから。だってさ、一人だけグッズには目もくれず、それに並ぶ人たちを遠くから見てたから」
「なるほどな。確かにそれは、俺に間違いない」
二人して微笑を零して、小さな笑い声を上げた。
「そんなに俺のグッズに興味ない? 少しだけだけど、俺がデザインしたTシャツとかストラップとかあるんだけど」
「そうなのか? それでみんなあんなに必死になって並ぶわけか。……あっ、別にいらないっていうわけじゃないんだぞ。でも、いつでも手に入る気がしてさ。それに俺が、お前のグッズとか持ってたら、なんか気持ち悪くないか?」
「確かに。なんか気持ち悪ぃ」