ライブは夜だというのに、俺たちは早朝に駅前で待ち合わせて、始発の電車でライブ会場へと向かった。
「先輩。これ、今更ですけどチケットのお礼です」
深桜はいきなりそう切り出すと、電車の中で、俺に細長い箱を差し出した。お礼を言うのは本当は俺の元カノなのだろうが、俺はその箱を受け取った。
誕生日には、深桜とプレゼントを渡し合っていたけれど、こうやって特別な日でもないのに貰うのは初めてで、面喰ってしまう。
「開けていいか?」
「はい。私この日を楽しみにしていたんです。だからせめて何かしたくて。先輩、就職活動始めるんですよね?」
俺は頷いて応えると、そっと蓋を開いた。中にはダークブルーのネクタイが入っていた。
どこかのブランドとかではなく、細い白い線の入ったシンプルなデザインだった。
「いいのか?」
「はい。そんなに高くないですけど、先輩がうまくいくように、ちゃんとおまじないしましたから。……それでよかったら、それ今つけてくれませんか?」
「なんでだよ。就活用だろ?」
彼女は何か言いたげな様子で、深桜の首に緩く巻かれているネクタイの先をそっと摘まんだ。深桜はこの日のためにいろいろ服装を考えたらしく、下はチェックのスカートで、上は白いブラウスにネクタイというスタイルだった。
どうやら、俺にも同じようにファッションとして巻いてほしいらしい。
でもネクタイなんて暑苦しいし、あの首の仕舞った感じが好きではない。最近はあまり見なくなったが、女子がネクタイをファッションとして締めているのは、どうも理解できなかった。どうしてわざわざネクタイなんて巻くのだろう。
ましておそろいで巻くなんて、恥ずかしくてできるわけない。今日の俺の服にネクタイが合わない訳じゃないが、俺はそれを箱に戻した。
「あっ! 先輩、仕舞っちゃ」
「ちゃんとしたときに使わせてもらうよ」
彼女の言葉を遮って、俺は穏やかな声で告げた。すると彼女はきょとんとした後、その言葉に納得してくれたようで、淡い微笑みを浮かべた。
♮
ライブ会場に到着したのは昼過ぎだというのに、この人だかりはいったい何なのだろう。
席は決まっているから、こんな急いでくる必要なんてないはずだ。だからまさかこんな早くから人が集まっているなんて、思ってもいなかった。信じられない光景を見て思わず、俺は唖然と立ち尽くした。
「先輩。これ、今更ですけどチケットのお礼です」
深桜はいきなりそう切り出すと、電車の中で、俺に細長い箱を差し出した。お礼を言うのは本当は俺の元カノなのだろうが、俺はその箱を受け取った。
誕生日には、深桜とプレゼントを渡し合っていたけれど、こうやって特別な日でもないのに貰うのは初めてで、面喰ってしまう。
「開けていいか?」
「はい。私この日を楽しみにしていたんです。だからせめて何かしたくて。先輩、就職活動始めるんですよね?」
俺は頷いて応えると、そっと蓋を開いた。中にはダークブルーのネクタイが入っていた。
どこかのブランドとかではなく、細い白い線の入ったシンプルなデザインだった。
「いいのか?」
「はい。そんなに高くないですけど、先輩がうまくいくように、ちゃんとおまじないしましたから。……それでよかったら、それ今つけてくれませんか?」
「なんでだよ。就活用だろ?」
彼女は何か言いたげな様子で、深桜の首に緩く巻かれているネクタイの先をそっと摘まんだ。深桜はこの日のためにいろいろ服装を考えたらしく、下はチェックのスカートで、上は白いブラウスにネクタイというスタイルだった。
どうやら、俺にも同じようにファッションとして巻いてほしいらしい。
でもネクタイなんて暑苦しいし、あの首の仕舞った感じが好きではない。最近はあまり見なくなったが、女子がネクタイをファッションとして締めているのは、どうも理解できなかった。どうしてわざわざネクタイなんて巻くのだろう。
ましておそろいで巻くなんて、恥ずかしくてできるわけない。今日の俺の服にネクタイが合わない訳じゃないが、俺はそれを箱に戻した。
「あっ! 先輩、仕舞っちゃ」
「ちゃんとしたときに使わせてもらうよ」
彼女の言葉を遮って、俺は穏やかな声で告げた。すると彼女はきょとんとした後、その言葉に納得してくれたようで、淡い微笑みを浮かべた。
♮
ライブ会場に到着したのは昼過ぎだというのに、この人だかりはいったい何なのだろう。
席は決まっているから、こんな急いでくる必要なんてないはずだ。だからまさかこんな早くから人が集まっているなんて、思ってもいなかった。信じられない光景を見て思わず、俺は唖然と立ち尽くした。