思っている以上に、身体は疲れているようだ。
「沖浦さん。……チケットもう投函してくれました?」
「えぇ。ちゃんと彼に届けたから、安心しなさい。彼女に届くといいわね」
「はい。ありがとうございます」
これから二ヶ月間のライブがスタートする。ライブだけじゃなくて、その合間に、少しだけラジオの仕事も入ってくる。それでも俺はまだ始まってもいないのに、最終ライブの日を心待ちにしていた。
俺の歌を聴きに来る人たちも、きっと俺に会いたいって思ってるのだろうか。
たぶんその気持ちと変わらない「逢いたい」っていう思いが、俺の心の中に沸々と熱を帯びて、湧き起こってきていた。
「……たった今、彼とは別れたけどね」
微かに沖浦さんが何か呟いた声が聞こえたけれど、俺は波のように押し寄せる睡魔に耐え切れず、そのまま寝てしまった。
♮
翔奏の電話があってから、深桜との別れのカウントダウンが始まった。それは、翔奏の最終ライブの日だ。
昨日、いよいよ一般チケットの発売が始まったものの、即完売。
数ヵ月後にはライブがスタートする。
「じゃあ、元気でね」
「うん。ありがとう」
俺は皆が欲しがっている翔奏のチケットを持った手を振りながら、走り去るスポーツカーを見送った。
もう後戻りできない。俺はその車が見えなくなるまで見送った後も、しばしその先を見つめた。
あの車に乗ることはもうない。自分で初めて断ち切った繋がりだ。
忙しいというのに朝から昼まで時間をつくってくれて、俺が彼女との最後の昼食を済ませた。
俺はチケットを握り締めて、大学の門を一人潜った。
「先輩。もしかして今の……」
突然の声に俺は肩を震わせた。振り返ると門の陰に隠れるように、深桜が複雑な表情でこちらを見ていた。
「なんだよ。驚かすなよ」
「先輩。私……」
深桜がちらっと、車が走り去って行った方を見て、沈黙する。いかがわしいことは何一つしていないから、俺は気にならなかったけれど、深桜はどうも気にしている様子だった。
「彼女に送ってもらったんだ。あっ、でもさっき別れたけど」
「えっ!? どうしてですか!!」
何事もないかのようにさらりと言ってのけると、案の定、深桜は声をあげた。
「別れようって言ったんだ。だから」
「先輩それ答えになってませんよ! それに先輩今まで傷つけたくないから、振らなかったんじゃなかったんですか?」
「沖浦さん。……チケットもう投函してくれました?」
「えぇ。ちゃんと彼に届けたから、安心しなさい。彼女に届くといいわね」
「はい。ありがとうございます」
これから二ヶ月間のライブがスタートする。ライブだけじゃなくて、その合間に、少しだけラジオの仕事も入ってくる。それでも俺はまだ始まってもいないのに、最終ライブの日を心待ちにしていた。
俺の歌を聴きに来る人たちも、きっと俺に会いたいって思ってるのだろうか。
たぶんその気持ちと変わらない「逢いたい」っていう思いが、俺の心の中に沸々と熱を帯びて、湧き起こってきていた。
「……たった今、彼とは別れたけどね」
微かに沖浦さんが何か呟いた声が聞こえたけれど、俺は波のように押し寄せる睡魔に耐え切れず、そのまま寝てしまった。
♮
翔奏の電話があってから、深桜との別れのカウントダウンが始まった。それは、翔奏の最終ライブの日だ。
昨日、いよいよ一般チケットの発売が始まったものの、即完売。
数ヵ月後にはライブがスタートする。
「じゃあ、元気でね」
「うん。ありがとう」
俺は皆が欲しがっている翔奏のチケットを持った手を振りながら、走り去るスポーツカーを見送った。
もう後戻りできない。俺はその車が見えなくなるまで見送った後も、しばしその先を見つめた。
あの車に乗ることはもうない。自分で初めて断ち切った繋がりだ。
忙しいというのに朝から昼まで時間をつくってくれて、俺が彼女との最後の昼食を済ませた。
俺はチケットを握り締めて、大学の門を一人潜った。
「先輩。もしかして今の……」
突然の声に俺は肩を震わせた。振り返ると門の陰に隠れるように、深桜が複雑な表情でこちらを見ていた。
「なんだよ。驚かすなよ」
「先輩。私……」
深桜がちらっと、車が走り去って行った方を見て、沈黙する。いかがわしいことは何一つしていないから、俺は気にならなかったけれど、深桜はどうも気にしている様子だった。
「彼女に送ってもらったんだ。あっ、でもさっき別れたけど」
「えっ!? どうしてですか!!」
何事もないかのようにさらりと言ってのけると、案の定、深桜は声をあげた。
「別れようって言ったんだ。だから」
「先輩それ答えになってませんよ! それに先輩今まで傷つけたくないから、振らなかったんじゃなかったんですか?」