「これ以上、深桜に付きまとうようなことしたら、俺どうなるか分かんないから。喧嘩したいなら、俺は付き合うけど、深桜を巻きこむのは許さねぇ」
それから二人とも言葉は交わさなかった。彼はそのまま立ち尽くし、地面を睨んでいる。
智歌先輩は私の方を見ずに、そのまま通りこして、先を歩いていってしまった。
「深桜。行こう」
千歳さんに手を引かれ、私たちは彼を一人残してその場を後にした。少しの間、静寂が満ちていたけれど、人の姿があちこちに見え始めてから、緊迫した空気が緩み始める。
「では、蓮見先輩。深桜のこと宜しくお願いします」
「あぁ。ありがとう。ここまで来れば大丈夫だろうから」
智歌先輩がそっと振り返ると、千歳さんの手が私から離れた。
「えっ? 千歳さん!?」
「もう大丈夫でしょう。蓮見先輩いるから」
ちらりと先輩の方を見ると、さっきとは別人のような温かい眼差しで私を見ていた。
「じゃあちょっと用があるから、私この辺で失礼します」
「あっ! 千歳さん」
私の声に答えることなく、千歳さんは笑顔のまま、手を振って駆け足でどこかへ行ってしまった。
できることなら二人きりにしてほしくはなかったけれど、行ってしまった今となってはこの気まずい雰囲気をどうにかしないといけない。
あんなところ見せたくはなかったし、何よりあんな先輩を見たくはなかった。
助けてもらっておいて、私は先輩と目を合わせるのが怖い。
「深桜、大丈夫か?」
先輩の声はどこまでも優しい。お礼を言いたくても声が出なくて、ただ目を逸らしたまま、頷くことしかできない。
助けてくれたのは、いつも傍にいてくれる智歌先輩なのに、私は一度も会ったことのない翔奏の名前を一番に叫んでいた。それがきっと私の本当の気持ちだ。
智歌先輩は私を守るために来てくれたのに、どうして今も翔奏の姿が頭から離れないんだろう。
考えれば考えるほど、深く心に刻むように翔奏の姿が濃くなっていく。
「深桜。お前は好きなやつ以外と絶対付き合ったりするな。どんなに遠くにいても翔奏には絶対逢えるから、だから自分の気持ちに嘘とか吐くなよ」
「えっ!」
私はその声に身体をビクッと震わせて、息をするのを忘れてしまった。
先輩は翔奏に抱く私の気持ちに気づいていたのだ。
それから二人とも言葉は交わさなかった。彼はそのまま立ち尽くし、地面を睨んでいる。
智歌先輩は私の方を見ずに、そのまま通りこして、先を歩いていってしまった。
「深桜。行こう」
千歳さんに手を引かれ、私たちは彼を一人残してその場を後にした。少しの間、静寂が満ちていたけれど、人の姿があちこちに見え始めてから、緊迫した空気が緩み始める。
「では、蓮見先輩。深桜のこと宜しくお願いします」
「あぁ。ありがとう。ここまで来れば大丈夫だろうから」
智歌先輩がそっと振り返ると、千歳さんの手が私から離れた。
「えっ? 千歳さん!?」
「もう大丈夫でしょう。蓮見先輩いるから」
ちらりと先輩の方を見ると、さっきとは別人のような温かい眼差しで私を見ていた。
「じゃあちょっと用があるから、私この辺で失礼します」
「あっ! 千歳さん」
私の声に答えることなく、千歳さんは笑顔のまま、手を振って駆け足でどこかへ行ってしまった。
できることなら二人きりにしてほしくはなかったけれど、行ってしまった今となってはこの気まずい雰囲気をどうにかしないといけない。
あんなところ見せたくはなかったし、何よりあんな先輩を見たくはなかった。
助けてもらっておいて、私は先輩と目を合わせるのが怖い。
「深桜、大丈夫か?」
先輩の声はどこまでも優しい。お礼を言いたくても声が出なくて、ただ目を逸らしたまま、頷くことしかできない。
助けてくれたのは、いつも傍にいてくれる智歌先輩なのに、私は一度も会ったことのない翔奏の名前を一番に叫んでいた。それがきっと私の本当の気持ちだ。
智歌先輩は私を守るために来てくれたのに、どうして今も翔奏の姿が頭から離れないんだろう。
考えれば考えるほど、深く心に刻むように翔奏の姿が濃くなっていく。
「深桜。お前は好きなやつ以外と絶対付き合ったりするな。どんなに遠くにいても翔奏には絶対逢えるから、だから自分の気持ちに嘘とか吐くなよ」
「えっ!」
私はその声に身体をビクッと震わせて、息をするのを忘れてしまった。
先輩は翔奏に抱く私の気持ちに気づいていたのだ。