二人の間に会話はなく、ただ私は黙って彼の後ろをついていった。
校舎を出てから、中庭を抜けると、その裏にある道で彼は止まった。校舎の裏にあたるここは、人気もなく、日当たりも悪い。
私の気持ちを表すかのように、風が通り抜けると近くの木々がざわざわとざわめく。
「ごめんね。いきなり呼びだしたりして」
彼は穏やかな微笑みを浮かべて、振り返った。
私は少し彼から距離を取ってから、またぎゅっと鞄を握り締めた。
「俺、どうしても深桜ちゃんのこと諦められなくて。それでちゃんと言いたいこと言おうと思ったんだ」
「でも……私」
彼の変わらない真っすぐな瞳から逃れるように、私は彼の足元に目をやった。
できることなら聞きたくないし、自分の気持ちは言いたくない。
先輩にも正直になれない自分の気持ちは、千歳さんしか知らないのだ。
翔奏の朗らかに笑う笑みや心に響く歌声が私は好きで、この気持ちを抑えることなんてできない。
「俺、深桜ちゃんのことが好きなんだ」
どうしてこの人は自分の気持ちを素直に言えるんだろう。私にはそんなこと絶対できない。そして、その気持ちに応えることもやっぱりできない。
翔奏と智歌先輩の顔が、同時に頭の中に浮んだ。
逃げ出したいけれど、もう逃げたくはない。
逃げたらきっと余計に彼を傷つけるし、期待させてしまうかもしれないからだ。
「……ごめんなさい。私、その気持ちには応えることができません。だから」
「今、好きじゃなくてもいい。軽いって思われるかもしれないけど、試しに俺と付き合ってほしいんだ」
「っ! 痛い……です。離してください」
いきなり腕を掴まれて、私は顔を歪めた。緊張と恐怖のせいで、心臓が激しい音を鳴らした。
彼の手を振り解こうとしても、抑えられた手が強くて離れなかった。
止めて! 離して!
心の中で何度もそう叫んだけれど、怖くて声が出ない。
「俺じゃダメかな? 俺なら絶対に深桜ちゃんのこと」
彼は必死に何か訴えてくるけれど、何も聞こえなかった。
すがる様な彼の瞳と目が合うと、私は抵抗するように数歩、後ずさった。でも彼は一向に手を離してくれない。
ただ早くここから離れたくて、誰か知っている人のところに行きたい。
校舎を出てから、中庭を抜けると、その裏にある道で彼は止まった。校舎の裏にあたるここは、人気もなく、日当たりも悪い。
私の気持ちを表すかのように、風が通り抜けると近くの木々がざわざわとざわめく。
「ごめんね。いきなり呼びだしたりして」
彼は穏やかな微笑みを浮かべて、振り返った。
私は少し彼から距離を取ってから、またぎゅっと鞄を握り締めた。
「俺、どうしても深桜ちゃんのこと諦められなくて。それでちゃんと言いたいこと言おうと思ったんだ」
「でも……私」
彼の変わらない真っすぐな瞳から逃れるように、私は彼の足元に目をやった。
できることなら聞きたくないし、自分の気持ちは言いたくない。
先輩にも正直になれない自分の気持ちは、千歳さんしか知らないのだ。
翔奏の朗らかに笑う笑みや心に響く歌声が私は好きで、この気持ちを抑えることなんてできない。
「俺、深桜ちゃんのことが好きなんだ」
どうしてこの人は自分の気持ちを素直に言えるんだろう。私にはそんなこと絶対できない。そして、その気持ちに応えることもやっぱりできない。
翔奏と智歌先輩の顔が、同時に頭の中に浮んだ。
逃げ出したいけれど、もう逃げたくはない。
逃げたらきっと余計に彼を傷つけるし、期待させてしまうかもしれないからだ。
「……ごめんなさい。私、その気持ちには応えることができません。だから」
「今、好きじゃなくてもいい。軽いって思われるかもしれないけど、試しに俺と付き合ってほしいんだ」
「っ! 痛い……です。離してください」
いきなり腕を掴まれて、私は顔を歪めた。緊張と恐怖のせいで、心臓が激しい音を鳴らした。
彼の手を振り解こうとしても、抑えられた手が強くて離れなかった。
止めて! 離して!
心の中で何度もそう叫んだけれど、怖くて声が出ない。
「俺じゃダメかな? 俺なら絶対に深桜ちゃんのこと」
彼は必死に何か訴えてくるけれど、何も聞こえなかった。
すがる様な彼の瞳と目が合うと、私は抵抗するように数歩、後ずさった。でも彼は一向に手を離してくれない。
ただ早くここから離れたくて、誰か知っている人のところに行きたい。