俺は何もかもが悔しくて、その思いをぶつけるように鍵盤に指を叩きつけた。悲鳴のようなピアノの音が、静かな部屋に響き渡った。
 深桜の気持ちも、翔奏にどんどん近付いているのも知っている。
 深桜が応募した作品は、まさしく俺たちが田舎で過ごしたものだった。
 翔奏をモデルにしたような子に、恋心を抱く女の子の恋物語。
 でもその作品の中には暗い過去はなくて、最後女の子は再会を約束し、二人に別れを告げて村を離れたところで終わった。
 どこまでも純粋で、幸せそうな小説だった。
 まるで記憶を辿ってかいた小説のようで、俺にはあの頃のちぃが戻ってきているみたいに感じた。