もしかしたら、翔奏にも手紙がもう来ているのかもしれない。そう思って、俺は懲りもせずに翔奏のところに向かった。
ちぃから手紙がきたことが、こんなに嬉しいなんて思ってもいなかった。
俺の中から翔奏を咎める気持ちが、さっぱりとなくなっていた。
彼女から手紙が来たんだ。だからもうどうでもいい。黙ってちぃに会おうとしたことも、ちぃを助けなかったことも。もしちぃが元気ではなかったら、翔奏を恨んでいたかもしれないけど、もうちぃが元気ならそれでよかった。
 翔奏の家のインターフォンを押すと、今日は中に入れてくれて、俺は翔奏と久しぶりに会うことができた。
俺はどこかまだ気を落とした翔奏に、手紙のことを切り出した。
「なぁ翔奏。お前さちぃから」
「ごめん。俺さ、あの日ちぃと二人で会いたくて、空き地に呼んだんだ」
俺の言葉を遮って、ただ他人のことを語るように、無機質な声で翔奏は全てを語り出した。
 あの日、俺に黙ってちぃを呼びだしたこと。何を話したいか分からなかったけど、ただ話したくて、走って空き地に向かったこと。
 そして、ちぃが石段の下で倒れているのを見て、自分が呼びだしたせいでそうなったこと。
 俺の目を合わせることなく、翔奏は淡々と語った。
「俺って最低だろう? 智歌に黙ってそんなことして、逃げ出してさ。本当にごめん。だからさ、俺のこと恨んでくれ」
最後は吐き捨てるような悲痛な声だった。
 どういう言葉を返していいのか分からない。嘘でもいいから翔奏に笑ってほしいのに、彼は笑うことを忘れてしまったみたいに、ただ呆然そこに立ち尽くしているだけに見えた。
 その姿を見ていられない。でも俺は、本当のことを言えなかった。手紙のことを言えば綺麗さっぱり解決するのに、俺はそれを言い出せなかった。
この時、ちゃんと言えていればこんなことにはならなかったのに、ちぃから手紙が届いたことを伝えるのが怖くなった。
もし、翔奏に手紙が彼女から届いているなら、ここまで憔悴しているだろうかと、ふと思った。
俺に届いていて、もし、翔奏に手紙が届いていなかったら、もっと彼は壊れてしまう気がした。
「言わないよ。そんなこと。だって俺、知ってたんだ。お前がさ、ちぃのこと気になってんの」
二人は確かに両想いだった。それが羨ましくもあり、悔しかった。でも自分ではもうどうすることもできない。
「でも智歌もちぃのこと」