「何? どうしたの、チカ。変なの。お医者さんと同じこと訊いてる」
「ごめん。ちょっと驚いたから。こんなこと初めてだったから、どうすればいいか分からなくて、まだちょっと頭がぐちゃぐちゃ」
それから俺は、何でもないような話を交わして、ちぃの手をそっと離した。
「ちぃ、ちょっと待っててね。翔奏に電話してくる」
俺はちぃが無事で安心したのか、自然と翔奏も呼ばなきゃという気持ちでいっぱいだった。
 ちぃが翔奏のことが好きとか、翔奏に嘘をつかれたとか、そのときはどうでもよくなっていた。
 ただ、ちぃが不思議そうな顔をしたような気がする。でも焦っていた俺は、先生から電話をかりて、翔奏の家に電話をかけた。
でも電話には誰もでなかった。
その後すぐに俺の母親が来て、すごい勢いでちぃの母親に謝っていた。それから、ちぃとあまり話もできないほど慌ただしくなって、「落ち着いたら連絡するね」というちぃの言葉と共に、彼女はこの村から離れて行った。

 騒々しい夜が明けて、目が覚めた頃には昼過ぎになっていた。
ちぃは今頃どうしてるだろう。
でも改めて、もうちぃはこの村にはいないんだと思うと、一抹の寂しさが過った。
昨日、結局何度か翔奏に電話をかけたけど、一度も翔奏はでなかった。電話が繋がったと思ったら出たのは彼の母親で、「もう翔奏はすでに寝ている」ということだった。
俺はベッドから跳ね起きると、早々に翔奏の家に行った。
どうして電話にでなかったんだろう。
どうしてちぃに会いにこなかったんだろう。
俺の母親が病院に来た時、翔奏の母親の姿もあった。どうして翔奏はそこにいなかったんだ。
ちぃが心配ではないのか。
抜け駆けして俺に黙って、ちぃに会おうとしたことよりも、俺はちぃを助けようとしなかったことが許せなかった。
 あのとき、彼女が求めていたのは俺じゃない。翔奏だったのに……。
 でも翔奏はそれから何日も出てこなかった。俺が毎日訪ねても、会ってくれなかった。翔奏の母親から「今は会いたくないって言うの」って言われ続けた。
 そうしている間に、ちぃから手紙が届いた。
 自分の怪我は大したことがないこと。それから「助けてくれてありがとう」という言葉が並んでいた。でもそこには翔奏の名前は一度も出てこなかった。