そんなことは分かってる。嘘を重ねたのも、ずっと黙っていたのも自分のためだ。
深桜を翔奏に取られて、悔しくて悲しくて虚しくて苦しかったからだ。深桜と離れたくないっていうただそれだけのために、俺は二人を引き離した。
「知ってたよ。全部」
自分でも思ってもいないくらいに、低くて無機質な声で俺は答えた。
「じゃあなんで……」
電話の向こうで翔奏も苦しんでいるのが分かる。彼の声は悔しさのあまり掠れてしまい、その後を続けることができなかった。
俺は翔奏にどうしても伝えなくてはいけないことがある。こればかりは嘘ではない。きっとこのことがなければ、翔奏はこんなに苦しまなくてすんだし、俺も嘘を重ねたりはしなかっただろう。
「なぁ。翔奏。どうして深桜がお前に会いに来なかったと思う?」
「なんだよ。……いきなり」
「なぜだと思う?」
俺は詰め寄る様に、翔奏に再度問いただした。
翔奏もようやく気付いたのだろう。
俺はともかく、深桜が翔奏に会い来てさえいれば、彼はずっと勘違いをせずにすんだのだ。少なくとも、住所は分かっているのだから、手紙くらいはかけたはずだ。
そうすれば、嘘なんてすぐにばれてしまう。
では、どうして深桜は翔奏に連絡をとらなかったのか。
それは、もちろん翔奏への拒絶ではない。
「……どういうことなんだ?」
少しばかりの沈黙の後、翔奏は質問を返した。もう彼を苦しめたくはない。
深桜が翔奏に会いに行かなかった理由。正確には会うことができなくなった理由。
それは簡単なことなのだ。
「知りたいか?」
「当り前だ!」
「……分かった。ちぃは」
久しぶりに呟いた彼女の呼び名は懐かしく、鎖を振りほどくには充分な響きだった。
「……お前といた記憶を無くしているんだ」
それは紛れもない真実だった。
俺は夏休みが始まり、翔奏が引きこもっている間に、そのことを知った。
そして、翔奏が引っ越す直前、俺にだけ深桜から手紙が来た。
そこには、全く翔奏のことが書かれておらず、まるで自分と二人だけで遊んで楽しかったというような思いでも綴られていた。
その後、何度か文通をしたが、翔奏への罪悪感と、深桜が翔奏のことを忘れていることが苦しくて、返事を返すのが次第にできなくなっていき、文通は途切れた。
その間、また会いたいという言葉が深桜が綴っていたが、それははぐらかし続けた。
深桜を翔奏に取られて、悔しくて悲しくて虚しくて苦しかったからだ。深桜と離れたくないっていうただそれだけのために、俺は二人を引き離した。
「知ってたよ。全部」
自分でも思ってもいないくらいに、低くて無機質な声で俺は答えた。
「じゃあなんで……」
電話の向こうで翔奏も苦しんでいるのが分かる。彼の声は悔しさのあまり掠れてしまい、その後を続けることができなかった。
俺は翔奏にどうしても伝えなくてはいけないことがある。こればかりは嘘ではない。きっとこのことがなければ、翔奏はこんなに苦しまなくてすんだし、俺も嘘を重ねたりはしなかっただろう。
「なぁ。翔奏。どうして深桜がお前に会いに来なかったと思う?」
「なんだよ。……いきなり」
「なぜだと思う?」
俺は詰め寄る様に、翔奏に再度問いただした。
翔奏もようやく気付いたのだろう。
俺はともかく、深桜が翔奏に会い来てさえいれば、彼はずっと勘違いをせずにすんだのだ。少なくとも、住所は分かっているのだから、手紙くらいはかけたはずだ。
そうすれば、嘘なんてすぐにばれてしまう。
では、どうして深桜は翔奏に連絡をとらなかったのか。
それは、もちろん翔奏への拒絶ではない。
「……どういうことなんだ?」
少しばかりの沈黙の後、翔奏は質問を返した。もう彼を苦しめたくはない。
深桜が翔奏に会いに行かなかった理由。正確には会うことができなくなった理由。
それは簡単なことなのだ。
「知りたいか?」
「当り前だ!」
「……分かった。ちぃは」
久しぶりに呟いた彼女の呼び名は懐かしく、鎖を振りほどくには充分な響きだった。
「……お前といた記憶を無くしているんだ」
それは紛れもない真実だった。
俺は夏休みが始まり、翔奏が引きこもっている間に、そのことを知った。
そして、翔奏が引っ越す直前、俺にだけ深桜から手紙が来た。
そこには、全く翔奏のことが書かれておらず、まるで自分と二人だけで遊んで楽しかったというような思いでも綴られていた。
その後、何度か文通をしたが、翔奏への罪悪感と、深桜が翔奏のことを忘れていることが苦しくて、返事を返すのが次第にできなくなっていき、文通は途切れた。
その間、また会いたいという言葉が深桜が綴っていたが、それははぐらかし続けた。
