今日、ちぃを一人空き地に呼び出さなければ、こんなことにならなかった。葬儀に行けば、「翔奏のせいだ」と言われたり、そういう目で見られるかもしれない。
 俺はまた逃げ出したのだ。あの時、ちぃを助けられたかもしれないのに、手遅れになってしまった。
 ちぃのことよりも自分を守ったばっかりに……。
 俺はあれからずっと彼女のことを口にするのが怖くて、まるでちぃがいなかったみたいに振舞った。
 そのせいか家の中で、ちぃの名を出す人は誰もいなかった。
 そして俺は、後ろ指を差されるのが怖くて、学校が始まっても、家の外には出なかった。
 ずっとそうしていたら、単身赴任で家にいない父親の家に母親と引っ越す話が出て、俺はその答えをすぐに出した。
 ここから離れられるなら、どこへでも行きたい。智歌と別れるのは嫌だけど、俺はもうこの村にいたくはなかった。
 でもせめて智歌には、ちぃのことを話していきたかった。軽蔑されてもいい。どうせここを離れるなら、今までずっと一緒にいた親友に話していきたい。
 だから俺は、引っ越し前に訪ねてきた智歌に、ちぃのことを話した。自分はちぃが好きだったと、あいつにだけそう話した。
 だから俺はちぃのために、歌を歌った。ちぃだけのことを考えて、いくつもの歌を歌ってきた。
 それでちぃが許してくれるとは思ってないし、俺の犯した罪が、消えるとも思っていない。
 沖浦さんに「恋愛ばかりの歌じゃ飽きられる」と言われながらも、俺は歌い続けた。
 たぶんこれからもそうしないといけない気がする。
「ちぃ。ごめんな」
俺は階段を見上げて、小さく呟いた。千歳深桜。俺たちよりも少し小さくて、千歳だから俺たちは彼女をちぃと呼んだ。
 ちぃは「全然身長変わらないよ」と頬を膨らませたけれど、ちぃと呼ばれるのは嫌じゃなかったらしく、そのまま呼ばせてくれた。
 その子に、俺の声は届いているだろうか。その答えは出ないまま、俺は結局、長く続く石段を上ることができず、この田舎を離れた。
 もしかしたら、ちぃが生きているかもしれないと思って、久しぶりにこの村に来たけれど、俺はただ現実に打ちのめされただけとなってしまった。

 俺はその帰りに、村から引っ越してからずっと住んでいる両親のマンションを訪ねた。
 インターホンを押すと、母親が中から出てきた。
「あら翔奏じゃない。どうしたの? 急に」