静かな声で答える俺の隣りで、智歌が屈託なく微笑みを返した。
「じゃあさ。俺たちと遊ぼう。これからここで」
「うん」
それから俺たちはそれぞれ名乗ったりして、いくつか会話を交わすうちにすぐ仲良くなった。とにかく俺と智歌はちぃに気にいられたくて、得意なことを彼女に話して聞かせた。
 自由研究がこんなところで役に立つなんて思いもしなかったけど、彼女が興味を持って花の話をよく聞いてくれたのは嬉しかった。
 都会には花が少ないみたいに聞いてたけど、それは本当らしい。「ここみたいに花はそんなに咲いていない」とちぃは言っていた。だから珍しくて、彼女は家を飛び出してから適当に歩いて花を探して回っていたという。
 それから俺たち三人は、俺や智歌の家で遊んだり、自慢できるような場所を回った。彼女の声も姿も珍しくて、俺はますます彼女が気にいった。
 時間がたつのが早くて、夏なのにすぐに日が沈んでいるみたいで嫌だった。
 ずっとずっと彼女と智歌と三人でいたい。
 でもそんな俺の気持ちを踏みにじるように、彼女がこの村を明日の夜には離れてしまうということを聞かされた。
 それは、智歌の家に三人で遊んでいて、ちぃは夕陽に照らされた窓辺をぼんやりと眺めながら、智歌が弾いていたピアノの音に混じる様にぽつりと呟いた。
「今日でこのピアノの音とお別れか」
その言葉に智歌も反応したらしく、鍵盤を滑らせていた手が止まった。
「ちぃ……今なんて?」
訊かなくても理解したはずなのに、訊かずにはいられなかった。
「明後日のお昼に、ここから家に帰るの。明日はいろいろ忙しくなるみたいだから、二人と遊べるのも今日が最後なんだ。黙っててごめんね」
「……そうなんだ」
俺たちはその後、何も言うことができなかった。突然のことに二人ともショックを隠せなかったのだ。
「でね、もしよかったら文通とかしたいなって思ったの。それにまた冬休みとか夏休みとか、私ここに遊びに来るから。だからまた三人で遊びたいの」
重たい空気を掃うかのように、ちぃは手をぱちんと合わせてにっこり笑った。でもどこか寂しげで、切なそうな表情に見えた。
「そうだよな。また会おうと思えば、いつでも会えるんだもんな。明日は、じゃあ二人でちぃを見送るよ」
「うん。そうだな」
智歌の言葉に、俺は何度も頷いて、同意した。