これでも一時間に多くて二本の電車がくると、ちゃんと音を鳴らして降りてくるから不思議だ。そこからまっすぐ行くと地蔵が見えてくる。
左には綺麗な朝顔が咲き乱れているけど、右には急な石段が待ち構えていて、俺達はその地蔵のことを天国と地獄の狭間にいる門番みたいだと言っていた。今考えれば、罰あたりなことを考えていたものだ。
「やっとここまで着いた」
「気をつけろよ」
地蔵の脇の階段を上ると、古びた寺が立っている。
でもその寺はもう使われておらず、不気味な雰囲気のまま放置されていた。
だいたいこの階段がきつくて他の子は階段の中腹で遊ぶけれど、俺たちは上まで上ってその先を目指す。
寺の裏にある子どもがギリギリ通れるくらいの隙間のあるフェンスをすり抜けると、そこに小さな空き地がある。空き地といっても本当に小さくて、俺の部屋よりも小さい。その先は急な坂になっていて、さすがに危なくてそこを降りたことはない。
寺の前だけでも十分な遊び場だけど、フェンスの向こうにある空き地は、町の景色が一望できる唯一の場所だ。だからここは、俺たちの秘密基地だった。村から出ることはあまりない俺たちにとって、その町の姿は格別素晴らしいものだった。
先に行く智歌に続いて、俺もいつものようにフェンスをすり抜けようとした。でもフェンスをすり抜けた智歌が全く動かず、そこに立ち尽くしたままだ。
夏の暑さのせいで、早く木陰に入りたい俺は、智歌に少しだけむっとしてしまった。
「おい。智歌! 早く行けよ」
「……いや。それが」
俺はただ固まって立ち尽くす智歌をぐいっと押して、よろめく彼に構わずフェンスを抜けた。
「……知り合いか?」
「いや」
俺は彼女を目に映した瞬間、智歌のように固まった。
水色のワンピースを着て、坂のぎりぎりのところに立ち尽くす女の子の長い黒髪が風で揺れている。それをただぼんやりと二人揃って眺めてしまった。
田舎でずっと育った俺たちにとって、この村に住んでいる子どもたちとは全員顔見知りだ。それくらい学校には生徒がいない。
「幽霊か?」
「まさか。こんな昼間から」
智歌が自然と零したその一言に、俺は彼と同じくらい小さな声で囁くように返した。
左には綺麗な朝顔が咲き乱れているけど、右には急な石段が待ち構えていて、俺達はその地蔵のことを天国と地獄の狭間にいる門番みたいだと言っていた。今考えれば、罰あたりなことを考えていたものだ。
「やっとここまで着いた」
「気をつけろよ」
地蔵の脇の階段を上ると、古びた寺が立っている。
でもその寺はもう使われておらず、不気味な雰囲気のまま放置されていた。
だいたいこの階段がきつくて他の子は階段の中腹で遊ぶけれど、俺たちは上まで上ってその先を目指す。
寺の裏にある子どもがギリギリ通れるくらいの隙間のあるフェンスをすり抜けると、そこに小さな空き地がある。空き地といっても本当に小さくて、俺の部屋よりも小さい。その先は急な坂になっていて、さすがに危なくてそこを降りたことはない。
寺の前だけでも十分な遊び場だけど、フェンスの向こうにある空き地は、町の景色が一望できる唯一の場所だ。だからここは、俺たちの秘密基地だった。村から出ることはあまりない俺たちにとって、その町の姿は格別素晴らしいものだった。
先に行く智歌に続いて、俺もいつものようにフェンスをすり抜けようとした。でもフェンスをすり抜けた智歌が全く動かず、そこに立ち尽くしたままだ。
夏の暑さのせいで、早く木陰に入りたい俺は、智歌に少しだけむっとしてしまった。
「おい。智歌! 早く行けよ」
「……いや。それが」
俺はただ固まって立ち尽くす智歌をぐいっと押して、よろめく彼に構わずフェンスを抜けた。
「……知り合いか?」
「いや」
俺は彼女を目に映した瞬間、智歌のように固まった。
水色のワンピースを着て、坂のぎりぎりのところに立ち尽くす女の子の長い黒髪が風で揺れている。それをただぼんやりと二人揃って眺めてしまった。
田舎でずっと育った俺たちにとって、この村に住んでいる子どもたちとは全員顔見知りだ。それくらい学校には生徒がいない。
「幽霊か?」
「まさか。こんな昼間から」
智歌が自然と零したその一言に、俺は彼と同じくらい小さな声で囁くように返した。
