ヘッドホンから流れてくるアコースティックギターの音に耳を傾けながら、私は机に顔を埋めた。ゆったりとした音が、優しい指で弾かれて紡がれていく。
この曲を聴いて私はまた惨めな気持ちになるのだろうか。
音楽にそっと溶け込むように、とても温かくて、懐かしいような優しげな歌声が流れ込んで来た。
ギターの音にそっと重なるような歌声は、私と同じ年くらいだろうか。裏声もしっかり出て、高く響く音もしっかりと出ている。
どちらかというと高めの声だけれど、大人びた声だった。
終始滑らかな曲調で、ギターとその歌声が、夜の海の波音のように、静かに語りかけてくるような、穏やかな曲だ。
その曲を聴き終えた瞬間、そっと涙が零れた。
自分が嫌いで悔しくて、虚しくて泣いているんじゃない。ただその歌声に出逢えたことに感激して、込み上げてきた気持ちが溢れて、自然と涙が零れたのだ。
音楽に溶け込んだように緩やかなのに、自分を力づけようと励ますような歌詞を歌っていた。誰かに向けた真っすぐな想いが、そこには満ち溢れていた。
私は耳だけに集中して、もう一度再生して、その歌が終わるまで浸り、涙を拭うのも忘れて、聴き入っていた。この一曲だけで、私は一瞬で藤沢翔奏のとりこになった。
この曲の影響力はすごかった。元気も出たし、何より勇気のようなものを貰った気がする。
次第にそれは、ある強い思いへと姿を変わっていった。
中学生のころに、私は物語を読みながら、自然と小説をかいてみたいと思って、原稿用紙に思いつくままに小説をかいていた。
最初は楽しくて、とまらなくて仕方がなかった。浮かんでくる言葉がとめどなく溢れてきて、ペンを走らせても手の動きよりも頭の想像が速すぎて追いつけず、原稿用紙に書き起こすのが間に合わない。そんな感じだった。
でも今の私はうまくかけなくて、完成させることができず諦めていた。汚い字で綴られた原稿用紙は、今は机の引き出しにしまわれている。
私はヘッドホンをしたまま、机の引き出しを開けた。
今ならまたかける気がする。
「……藤沢翔奏」
私はそのCDジャケットに刻まれた彼の名前をそっと指で触れ、彼に感謝するようにそのケースを胸に抱いた。そしてエンジンをかけるように、また再生ボタンを押して、原稿用紙を広げた。
彼の歌が聞こえ始めたのと同時に、私は原稿用紙にまたペンを走らせることができた。
この曲を聴いて私はまた惨めな気持ちになるのだろうか。
音楽にそっと溶け込むように、とても温かくて、懐かしいような優しげな歌声が流れ込んで来た。
ギターの音にそっと重なるような歌声は、私と同じ年くらいだろうか。裏声もしっかり出て、高く響く音もしっかりと出ている。
どちらかというと高めの声だけれど、大人びた声だった。
終始滑らかな曲調で、ギターとその歌声が、夜の海の波音のように、静かに語りかけてくるような、穏やかな曲だ。
その曲を聴き終えた瞬間、そっと涙が零れた。
自分が嫌いで悔しくて、虚しくて泣いているんじゃない。ただその歌声に出逢えたことに感激して、込み上げてきた気持ちが溢れて、自然と涙が零れたのだ。
音楽に溶け込んだように緩やかなのに、自分を力づけようと励ますような歌詞を歌っていた。誰かに向けた真っすぐな想いが、そこには満ち溢れていた。
私は耳だけに集中して、もう一度再生して、その歌が終わるまで浸り、涙を拭うのも忘れて、聴き入っていた。この一曲だけで、私は一瞬で藤沢翔奏のとりこになった。
この曲の影響力はすごかった。元気も出たし、何より勇気のようなものを貰った気がする。
次第にそれは、ある強い思いへと姿を変わっていった。
中学生のころに、私は物語を読みながら、自然と小説をかいてみたいと思って、原稿用紙に思いつくままに小説をかいていた。
最初は楽しくて、とまらなくて仕方がなかった。浮かんでくる言葉がとめどなく溢れてきて、ペンを走らせても手の動きよりも頭の想像が速すぎて追いつけず、原稿用紙に書き起こすのが間に合わない。そんな感じだった。
でも今の私はうまくかけなくて、完成させることができず諦めていた。汚い字で綴られた原稿用紙は、今は机の引き出しにしまわれている。
私はヘッドホンをしたまま、机の引き出しを開けた。
今ならまたかける気がする。
「……藤沢翔奏」
私はそのCDジャケットに刻まれた彼の名前をそっと指で触れ、彼に感謝するようにそのケースを胸に抱いた。そしてエンジンをかけるように、また再生ボタンを押して、原稿用紙を広げた。
彼の歌が聞こえ始めたのと同時に、私は原稿用紙にまたペンを走らせることができた。
