あの懐かしくて心が落ち着く曲は、智歌先輩が創って私にピアノで聴かせてくれたものだ。田舎で年の離れた智歌先輩のお姉さんがピアノ教室を開いていて、その影響でピアノが弾けた先輩が適当弾いてできた曲らしい。
詳しくは知らないけれど、昔そういうふうに智歌先輩から聞いたのを思い出した。
一度しか聴いたことがないはずなのに、あの頃の情景が浮かぶみたいに、そのメロディが私の頭の中で鳴り響く。
「智歌先輩って吹奏楽部なんですか?」
「いや。帰宅部。ただたまにこうやって空いてるときに弾かせてもらってるだけ」
智歌先輩はちらりと音楽室を見た後、また私を階段の上から見つめた。ちょうどその時、夕陽が傾いて窓から差し込む光が眩しくて、私はそっと目を細めた。
「深桜は?」
「私も帰宅部です。でも自分では図書部だって勝手に思ってたり……」
私はさっき図書館で借りた数冊の本を、ちらっと先輩に見えるように見せた。でもオレンジ色に染まった階段で、先輩からちゃんとそれが見えていたのか私には分からなかった。
「なるほどね。じゃあたまに来るといいよ。吹奏楽部が休みのときは俺、大抵ここにいるから」
「本当ですか? じゃあ来ます!」
嬉しさのあまりはしゃいだ私の声に重なる様に、先輩のスマホが震えた。スマホを確認した先輩は、ため息を吐いてどこか気だるそうに音楽室の戸を開いた。
姿が見えなくなって、数段私が階段を上ったら、中からまた先輩が戻って来た。
「ごめん。もう俺行かなきゃ。じゃあ」
鞄を握った手を軽くあげて、先輩は振り返らずそのまま階段を降りてどこかへ行ってしまった。
数分にもみたなかったけれど、先輩と再会できた嬉しさのあまり、私は先輩を追いかけるみたいに、ものすごい勢いで階段を駆け下り、校門まで走った。
その帰り道、これから先輩とどんな話をしようかとか、あの曲をもう一度弾いてくれるように頼んでみようとかいろいろな考えを巡らせた。
それから私たちは、度々会うようになって、あの頃からの空白の時間を埋めるように思い出を作っていった。
でも音楽室に先輩の彼女がいる時は、さすがに入れなかった。ただその彼女も見るたびに違う人になっていて、同じ人がいたことは一度もなかった。
詳しくは知らないけれど、昔そういうふうに智歌先輩から聞いたのを思い出した。
一度しか聴いたことがないはずなのに、あの頃の情景が浮かぶみたいに、そのメロディが私の頭の中で鳴り響く。
「智歌先輩って吹奏楽部なんですか?」
「いや。帰宅部。ただたまにこうやって空いてるときに弾かせてもらってるだけ」
智歌先輩はちらりと音楽室を見た後、また私を階段の上から見つめた。ちょうどその時、夕陽が傾いて窓から差し込む光が眩しくて、私はそっと目を細めた。
「深桜は?」
「私も帰宅部です。でも自分では図書部だって勝手に思ってたり……」
私はさっき図書館で借りた数冊の本を、ちらっと先輩に見えるように見せた。でもオレンジ色に染まった階段で、先輩からちゃんとそれが見えていたのか私には分からなかった。
「なるほどね。じゃあたまに来るといいよ。吹奏楽部が休みのときは俺、大抵ここにいるから」
「本当ですか? じゃあ来ます!」
嬉しさのあまりはしゃいだ私の声に重なる様に、先輩のスマホが震えた。スマホを確認した先輩は、ため息を吐いてどこか気だるそうに音楽室の戸を開いた。
姿が見えなくなって、数段私が階段を上ったら、中からまた先輩が戻って来た。
「ごめん。もう俺行かなきゃ。じゃあ」
鞄を握った手を軽くあげて、先輩は振り返らずそのまま階段を降りてどこかへ行ってしまった。
数分にもみたなかったけれど、先輩と再会できた嬉しさのあまり、私は先輩を追いかけるみたいに、ものすごい勢いで階段を駆け下り、校門まで走った。
その帰り道、これから先輩とどんな話をしようかとか、あの曲をもう一度弾いてくれるように頼んでみようとかいろいろな考えを巡らせた。
それから私たちは、度々会うようになって、あの頃からの空白の時間を埋めるように思い出を作っていった。
でも音楽室に先輩の彼女がいる時は、さすがに入れなかった。ただその彼女も見るたびに違う人になっていて、同じ人がいたことは一度もなかった。