とても懐かしいこの音は間違いなく、昔どこかで聞いたことのある曲を奏でていた。
題名は分からない。でも知っている。
誰が弾いているのか分からないけれど、窓から漏れる音を聞きながら、私は図書室を出て、桜が舞う校庭を横切った。駆け足で階段をのぼり、そっとドアについているガラス窓から中を覗いた。
音楽室の奥にある黒板の斜め前にあるグランドピアノ。そこからこの音を零しているのは誰だろう。弾いている人にばれないように目を凝らして確かめようにも、座っているせいかよく見えない。でも制服の感じから男子生徒だということが分かった。
今日、吹奏楽部は休みなのだろうか。音楽室の中には先生はおろかその生徒以外誰もいない。
「どこで聞いたんだろう。この曲」
思い出せず、歯がゆい気持ちで見ていたら、ふいに音が止み、立ち上がった男子生徒とばっちり目があった。
「やばい!」
盗み見みしていたことがばれては、何を言われるか分からない。私は急いで元来た道を戻るように階段を駆け降りた。でも焦ったせいで足がもつれ、転びはしなかったものの逃げ損ねてしまった。
「待って! 深桜」
勢いよくドアを開けた男子生徒の声に私はドキッとしたけど、後ろを振り返るのは怖くなかった。
曲と同じくその懐かしい声に、緊張と焦りが一気になくなってしまったのだ。
「……智…歌くん?」
それが先輩と私の再会だった。
「智歌……先輩もこの高校に来たんですね」
彼と会うのは久しぶりで、昔みたいに呼んでいいものか分からなくて、改まった呼び方をしてしまった。それをきっかけに、私は彼のことを智歌先輩と呼ぶようになった。
昔は彼のことを智歌くんと呼んでいた。
でも彼と過ごしたのは夏休みのたった一週間だけで、その後は、文通や電話で話したくらいだ。それからはそれぞれ受験勉強とかで忙しくなって、連絡することも自然となくなり、そのままになっていた。
だからたった一週間しか過ごさなかったあの時から比べると、お互い姿も変わって、あまり変わらなかった身長もずいぶんと差ができていた。
「あぁ。田舎の高校は嫌だったからこっちに出てきて、今は寮で過ごしてるんだ」
「そうなんですね。全然知らなかったです」
「まだ入学したばかりだから仕方ないんじゃないか? でも会えてよかった」
「はい。私もそう思います。あっ! 私あの曲を聴いてここまで来たんですよ」
題名は分からない。でも知っている。
誰が弾いているのか分からないけれど、窓から漏れる音を聞きながら、私は図書室を出て、桜が舞う校庭を横切った。駆け足で階段をのぼり、そっとドアについているガラス窓から中を覗いた。
音楽室の奥にある黒板の斜め前にあるグランドピアノ。そこからこの音を零しているのは誰だろう。弾いている人にばれないように目を凝らして確かめようにも、座っているせいかよく見えない。でも制服の感じから男子生徒だということが分かった。
今日、吹奏楽部は休みなのだろうか。音楽室の中には先生はおろかその生徒以外誰もいない。
「どこで聞いたんだろう。この曲」
思い出せず、歯がゆい気持ちで見ていたら、ふいに音が止み、立ち上がった男子生徒とばっちり目があった。
「やばい!」
盗み見みしていたことがばれては、何を言われるか分からない。私は急いで元来た道を戻るように階段を駆け降りた。でも焦ったせいで足がもつれ、転びはしなかったものの逃げ損ねてしまった。
「待って! 深桜」
勢いよくドアを開けた男子生徒の声に私はドキッとしたけど、後ろを振り返るのは怖くなかった。
曲と同じくその懐かしい声に、緊張と焦りが一気になくなってしまったのだ。
「……智…歌くん?」
それが先輩と私の再会だった。
「智歌……先輩もこの高校に来たんですね」
彼と会うのは久しぶりで、昔みたいに呼んでいいものか分からなくて、改まった呼び方をしてしまった。それをきっかけに、私は彼のことを智歌先輩と呼ぶようになった。
昔は彼のことを智歌くんと呼んでいた。
でも彼と過ごしたのは夏休みのたった一週間だけで、その後は、文通や電話で話したくらいだ。それからはそれぞれ受験勉強とかで忙しくなって、連絡することも自然となくなり、そのままになっていた。
だからたった一週間しか過ごさなかったあの時から比べると、お互い姿も変わって、あまり変わらなかった身長もずいぶんと差ができていた。
「あぁ。田舎の高校は嫌だったからこっちに出てきて、今は寮で過ごしてるんだ」
「そうなんですね。全然知らなかったです」
「まだ入学したばかりだから仕方ないんじゃないか? でも会えてよかった」
「はい。私もそう思います。あっ! 私あの曲を聴いてここまで来たんですよ」