応募した小説大賞の結果が今日、発表された。やっぱり私の名前も千歳さんの名前もどこにもなかった。
 この受賞者の人たちは、小説デビューという夢が叶っただけではなく、藤沢翔奏に逢えるという特典つきで、私にとってはかなり羨ましくて仕方がない。
 私は歯がゆい思いを抱きながらも、結果発表のページを閉じて、スマホの電源を落とした。
「そんなに気を落とさなくても結果は分かってたわけだろう?」
「……でも最後まで結果を見ないと諦めきれないんです!!」
「そうなんかねぇ」
先輩は呆れ顔でため息を吐いた。その様子に、私は微かに頬を膨らませた。
「もう! 先輩には分かりませんよ。一生懸命夢を追いかけてる人の気持ちなんて」
「今日はいいのか?」
先輩はそんな私を全く気にすることなく、スマホから顔を上げると、いきなりそんなことを訊いてきた。
 先輩が言っているのは、きっとピアノのことだろう。先輩は私がお願いすれば、今日もピアノを弾いてくれる。でも一次結果を見たときに、弾いてもらって慰めてくれた。私にはそれだけで十分で、これ以上甘える訳にもいかない。私は先輩の彼女ではないのだから……。
「えぇ。先輩は今からデートなんでしょう。さっきから鳴らないスマホをちらちら見てますから分かりますよ。それに私だって今日は予定があるんです」
「どうせ藤沢翔奏様のCD発売日だろ?」
「うっ!」
強気に胸を張って答えたものの、図星ですぐに何も言えなくなる。
 先輩の言う通り、今日は待ちに待った藤沢翔奏の新曲の発売日だ。まぁ正式な発売日は明日だけれど、ファンとしては発売日一日前に売り出されるCDをゲットしなければ気が済まない。
 情報を聞きつけてからは、すぐに予約をしに行った。ただ今日はずっと授業で、大学を抜け出すこともできず、買いに行く暇もなかった。
 授業をさぼってまで買いに行くのは、なんとなくモラルに反するというか、そこまでして藤沢翔奏が曲を聴いてほしいのかというと違う気がした。
 彼ならきっと「ずるいことをしてまで、自分の曲を聴いてほしくはない」と言うと思うのだ。勝手な想像だけれど、私はそんな彼に忠実でありたい。
 それに今日は小説大賞の結果発表で、「受かっていない」という事実を叩きつけられる日でもあるから、彼の歌声で癒してもらうつもり満々だった。