彼女からしたら知ったことかという感じだろう。無責任で自分勝手な考えだ。分かっているつもりでも、そんなことを思ってしまう自分に今度は苛々してしまう。
 でもあいつから俺の彼女の話題を出される度に、心に穴を掘られているような感覚になる。
 それは小さな穴だが、いくつも掘られると隙間風が通るみたいに冷たくなる。今付き合ってる人も、好きだから付き合っているわけではない。だから、こうなるのも自業自得なのは百も承知だ。
 ただ俺ももうその痛みに限界が来ている気がするのだ。
 だからそろそろ終わらせなければならないとは思う。
 でも自分から言い出せず、結局ずるずる引きずってしまっている。
「先輩。もう行ってください。これお土産です」
レジから戻って来た彼女は、小分けなった袋を二つ、お菓子の箱から取り出して俺に差し出した。
 この純粋な微笑みが、きっと俺の心を深く傷つける要因の一つだ。嘘だらけの俺とは違うと現実を突き付けられているような気がするのだ。
「二つもいらない」
「もう! 先輩はこれだから。先輩のカノジョさんの分ですよ。じゃあ邪魔者は退参しますね」
彼女は無理やり二つ俺に握らせると、手を振って行ってしまった。
 俺はカノジョと会う気なんかないし、一人になっても特にやることもない。
 俺は一人、大学を出て、買いたい物なんてないのに、街中をうろうろと歩き回った。
 CDショップに入れば、翔奏のポスターと目が合い、近くにいるのに遠い存在の彼を見つめた。
 何となく翔奏なら成功する気がしていた。この世界に行ってしまうのも遠くないと……。
 声もいいし、一途でそこから紡がれる言葉も奏でられる旋律も、どこか普通とは違っていた。それに俺とは違う優しそうな微笑みも様になっていて、ルックスもいい。言いたいことを素直に歌にして歌えるところなんて、俺とは全く違うところだ。
 人気が出ない訳がない。
 本屋に行っても、にこやかに笑う翔奏と目が合う。雑誌の表紙を飾る数もだんだんと増えてきている。音楽だけでなく、モデルなんかしてもいいだろうとか勝手に思ってはいるけど、翔奏にはそんな気は全くない。
 音楽に関係のない仕事は、できるだけしたくないらしい。でも今回の小説の審査員は例外だった。