ポケットから振動が伝わってきて、スマホを取り出して、翔奏からのメッセージが届いたと分かった瞬間、嫌な予感がした。
 だいたいそういう予感は俺の場合、よく当たる方だ。女の子からの別れ話も、「なんかあるなぁ」っていつもと違う雰囲気を感じるときは、大抵面倒なことや別れ話がほとんどだった。
 でもそんな予感を感じながらも、逃げることなんてできないし、電話する時間がないわけでもない。
 俺は今日の夜中ならいつでもいいことを伝えると、すぐにまた返事がきて、九時頃に電話をすることが短いメッセージのやりとりで決まった。
 だいたい翔奏が電話してくるときは、結構話が長くなるときだ。長い付き合いで何となく、察しがつく。
 藤沢翔奏とは幼い頃からの付き合いで、彼がデビューすることになったのを一番に知ったのは俺だった。音楽を共にしてきたわけではない。もちろん一緒に音楽をやろうと言われたこともある。でも俺には彼と一緒に歩くことができなかった。
 才能とかそういうことではなく、ただ歩きたくなかったのだ。
 でも彼の曲を一番間近で最初から聴いていたのは間違いなく俺だ。自慢することでもないけれど、ただそれほど俺たちの距離は近かった。
 でも家族や彼の事務所の関係者以外で、俺と翔奏の関係を知る人は誰もいない。
大学の知り合いたちは、俺がそいつと昔ながらの友達だなんて思いもしないだろう。でも事実そうであるのは変わりないし、別に言う必要もない。
 ただ穏便に大学生活を過ごせればそれでいいのだ。
 そして今、俺の隣りで新作のお菓子を二つ手にして、どちらを買おうか真剣に悩んでいるやつには絶対にばれたくはない。
 むしろ、ばれてはいけないのだ。
 でもきっとそれも時間の問題なのだと、絶望に近い暗い気持ちが渦巻めき始めた。
「智~歌先輩。もしかしてカノジョですか?」
何も知らずにからかうような彼女の声に、俺は少し苛ついてしまった。お前のことで変な気分になってるのに、当の本人はなんて暢気な顔してんだよと、無責任なことだとは分かっていても、心の中で呟かずにはいられなかった。
「まぁそんなとこ」
ぶっきらぼうな声に彼女は呆れたようにため息をついて、お菓子の箱を一つ持ってレジに行ってしまった。
 人の気も知らないで。誰のせいで俺がこんな気持ちになってると思ってんだと、彼女の背中を見ながら思ってしまった。