そんな中であなたが最終審査員に選ばれた。あなたのファンが事細かにあなたのことを調べて、あなたの過去に似せて小説を仕上げて、その子になりすましてその子の名前で応募してきたかもしれない。あなたの共感を得れば選ばれると思ってね」
「でもちぃはもうこの世には……」
「そんなこと言ってもあなたはその作品を読んで、千歳さんだって思ったわけでしょう。もし私が言ったことが本当なら、その応募者の思うつぼじゃなくて?」
返す言葉がまたもや見つからず、俺は視線を落とした。
 沖浦さんの言うように、ちぃがかいたというよりもファンの子がなりすましてかいたという線が強い気がする。同姓同名の子だと、……ちぃではないと俺も何度も思った。
 もうちぃはこの世にはいないのだ。
 俺はちぃという女の子に初恋をして、今もその想いをずるずると引きずっている。我ながら情けないが、こういう業界に入ったせいもあり、未だに彼女なんてできたことはない。
 もういない女の子をいつまでも追いかけて、同姓同名の女の子がかいた小説に心を奪われている。
 でも沖浦さんにここまで言われ、それに納得しているはずなのに、どうしても心の底から納得していない自分に呆れてしまう。
「まぁ確信があるなら、別に構わないけど」
「……沖浦さん!? 今なんて?」
俺は思わず沖浦さんの方に顔を向け、彼女を見つめた。彼女はちらりと俺の方を見て、くすりと笑う。
「だからその子が本当に“ちぃちゃん”であるなら、会っても構わないって言ったのよ。こんなおいしいことなんてそうそうないわ。昔の想い人が投稿してきて、めでたく再会。そしてハッピーエンド。よくできた筋書きじゃない?」
「でも事務所や世間が許しませんよ」
俺が苦笑交じりにそう答えると、沖浦さんはハンドルをぎゅっと握りしめた。
「全く。私を誰だと思ってるの? そうなれば上には私からちゃんと伝えるわよ。その子のことだって気にかけれるし、ファンの子も昔の想い人にまで手は出さないでしょう?」
「まぁ彼女がちぃだなんてことは、絶対にないんですけどね」
俺はそう言いながらも、スマホを開いて、今日時間があるか昔から俺を支えてくれた一番信頼している友人にメッセージを打っていた。

 翔奏からメッセージが来たのは講義も終わり、ふらふらと大学を歩いて、何気なく売店に立ち寄ったときのことだった。