三十過ぎていても大学生には負けないくらい若々しく綺麗な顔立ちなのに、未だに結婚していない沖浦さんは、仕事一筋な感じで、こう黙られるとどう話をしていいのか分からなくなる。いつもは気になる排気音も、今はこの沈黙を緩和させる音としてちょうどよかった。
 俺は何も話を切り出すこともできずに、流れゆく景色を眺めた。俺が乗っていても外から分からないように、カーフィルムが張られているから変装しなくていいのは楽だ。
 でも今は空気が重く、沖浦さんの視線から逃れたくて帽子でも被りたい気分だ。
「翔奏。さっきのこともそうだけど、あなた最近どうしたの?」
沖浦さんは車を走らせながら、そう切り出してきた。意外にも優しい声音で少し驚いた。てっきりかなり怒られると思っていたからだ。
 俺は一度深呼吸をして落ち着いてから、どう答えたらいいものかと考えてはみたが、きっと沖浦さんはある程度俺のことを見抜いているはずだ。少なからず、俺が個人的に彼女に会おうとしていることはバレているみたいだ。
 俺が女の子と会っているなんてマスコミに知られたら、瞬く間に世間に広まり、あちこちで声が上がるに違いない。
 審査員という立場を私的利用したことが分かれば、批判や暴言も飛び交うだろう。
 俺自身はどう悪く言われようと構わないが、事務所や最悪なことにその当事者である子にも迷惑がかかるのは絶対に避けたい。
 その子がバッシングを受けるようなことにでもなれば、状況はさらに深刻化する。そこまで見越して沖浦さんは心配し、そうならないために注意しているのだろう。
 俺はこの人に隠しても仕方がないと早々に諦め、全てを沖浦さんに白状した。

「なるほどね。だいたいのことは理解できたし、会いたいって気持ちも分からなくもない。……でもその子に会わせるわけにもいかないわ」
「そうですよね」
俺は萎れたような声で答え、諦めたようにそっと溜息を吐いた。
「その子が本当に昔のえっと……千歳さん? でいいかしら? その子であるかも分からないのに、会うのは危険すぎる。もし違ったら取り返しがつかないでしょう。ただでさえあなたのファンが多く応募している賞なのよ。あなたの歌は過去に出逢った女の子を想って歌っているってことは、ファンの中で憶測が飛び交っている。