「なんでって……そうだなぁ。ああいうみんなでわいわい騒ぐのが好きだからかな~」
千歳さんはどうでもいいような感じで答えると、またおかずをお箸で摘まんで口に運び始めた。
「だって千歳さんだって好きな人いるんでしょう。昔、近所にいたっていう……」
「もう遠くにいっちゃったから叶わないの。それにいつの話よ。もう向こうも私のことなんて忘れてるわよ」
「そんな諦めちゃ駄目だよ!」
私はぎゅっとお箸を握り締めて、首を横に振った。そんな会えないからって簡単に諦めてほしくない。
 千歳さんの事情をよく知らない私に言われても、鬱陶しいだけかもしれない。でも千歳さんは、私にだけ好きな人がいることを明かしてくれたのだ。だから私以外に千歳さんを応援できる人はいない。だから知っている者として、諦めてほしくはないのだ。
 でもそんな私の気持ちを受け流すように、千歳さんは深いため息をついた。
「もう私の話はどうだっていいの。……それより結果見たんでしょう。藤沢翔奏が審査員のやつ。深桜もダメだったよね」
「えっ!? なんで知ってるの!!」
私が今度は目を丸くして、口を開ける番となった。そのことは智歌先輩しか知らないはずだ。
 千歳さんはまたため息を吐いた。
「ばればれだよ。審査員の発表があってすぐに深桜がすごい勢いで小説かき始めたのが分かったから、智歌先輩に訊いてみたの」
「先輩ばらしたの?!」
「えぇ。応募するために頑張ってるらしいって。ひどいじゃない。私に応募すること教えてくれないなんて」
千歳さんはそっと私から目を逸らして、頬を少し膨らませた。
 私は慌てて千歳ちゃんに頭を下げた。
「ごめん。なんか言いだせなくて。千歳さん、もう応募してるって言ってたから……」
彼女も私と同じく藤沢翔奏のファンで、作家志望だけど、彼女は彼が審査員を務めること分かる前からその公募に応募していた。
 彼女は真剣に小説賞がとりたくて応募したのに、私は藤沢翔奏が目当てだって思われるのが嫌だったのだ。確かに正直なことを言えば、それが応募した一番の理由になってしまうけど、ちゃんと私も小説家を真剣に目指しているって示したかったのだ。
「そう。別に気にしてないからいいけどさ。でもまぁ結果は二人して惨敗だったけどね」
「うぅ~」
 時間がたってもその事実を突き付けられて、またちくりとした痛みが心に沁みた。