私は街頭でぼんやりと照らされた道を一人歩きながら、街中の喧騒から遠ざかるように、イヤホンを耳にかけ、スマホから流れ出す翔奏の曲に耳を傾けた。

「深桜~」
 次の日、大学で千歳さんとばったり食堂で会った。トレイを片手に千歳さんが手を振っている。
 昨日、夜帰った後にメッセージアプリで謝って、その後「気にしないで」って返事が来たけど、一晩立って頭が冷えると、やっぱり申し訳ない気持ちになってくる。
 子どもっぽいことをして、千歳さんに迷惑がかかったとか思うと、胸が苦しくなって、後悔が押し寄せてくる。
「深桜。もしよかったら一緒に食べない?」
「う、うん」
いつもと変わらず接してくれる千歳さんは、きっと私と違ってずっと大人なのだろう。私はそんなことを思いながら、千歳さんの前の席に座った。
「昨日は付き合ってくれてありがとうね。それから気を悪くさせちゃったみたいで、ごめん」
彼女はトレイを置くと、手を合わせて軽く頭を下げた。
 どうして千歳さんが謝るのだろう。
 その言葉は、本当は私が言わなきゃいけないのに、どうして智歌先輩のときといい、私は言いたいことを先に言われてしまうのだろう。
「ううん。千歳さんが謝ることじゃないよ。私が悪いの。本当にごめんね」
 私はトレイに乗ったお箸をぎゅっと握りしめた。本当に自分が情けなくて、腹が立ってしまう。どうしてもっと早く私の口は動いてくれないのだろう。
「あの人、どうも深桜のことが気になってたみたいで……。ただ、ちゃんとフォローしといたから大丈夫だし、また別のメンバーで合コン開けばいいだけだよ」
千歳さんはふうとため息をついて、「いただきます」と呟くと、私と同じ日替わりランチを口に運んだ。
 前から不思議だったけど、千歳さんはよく合コンの幹事をしていた。
 飲み会が好きとかそういうことは聞いたことはない。むしろ千歳さんはお酒が弱いほうなのだ。
 それに千歳さんには好きな人がいる。それなのにどうして合コンを開くのか分からなかった。
「ねぇ、千歳さん。質問したいことがあるんだけどいい?」
「ん? 何?」
「どうして千歳さんは合コンに行くの?」
その質問に千歳さんはぽかんと口を開けて、丸くした目で私を見つめた。
 そのせいで口に運ぼうとしたおかずが、お箸からお皿に戻ってしまった。