こんな田舎の夜中に、似つかわしくないその車が、とても懐かしかった。
あの車には、何度か乗ったことがあるし、今まで付き合った人たちの中で、一番安らげた場所だった。
今、彼女はどうしているんだろう。
そんなことを思ったら、ふっと口の端に笑みが零れた。
きっと今も昔も変わらず、真っすぐ仕事に向かって進んでいっているに違いない。
スポーツカーが見えなくなっても、俺はその先をぼんやりと眺めた。
彼女にも辛い思いをさせてしまって申し訳ないけど、今まで付き合ってきた中では、たぶん一番好きだったと思う。彼女が年上だからかもしれないが、気を張らずにいられたし、居心地がよくて、一番長く付き合えた。
仕事から少しでも離れることができる場所を、俺は彼女に創れただろうか。
俺と一緒にいるとき、彼女を少しでも癒すことができていたなら、それでよかった。彼女がそう思っていてくれたら、俺の気持ちも救われる。
俺にとって深桜の次に大切な女の人だったから――。
「智歌くん。どうしたの?」
不思議そうに覗きこんでくる彼女を、幸せにできるか分からない。
今でも翔奏の方が、俺より幸せにできたかもしれないと不安に思っている。
でも、彼女が俺を選んでくれたから、俺も嘘を吐かずに、これからは誰よりも深桜を幸せにしていこうって、自然とそういう気持ちが広がっていった。
♮
それからしばらくたって、翔奏がまた新曲を出すらしく、発売日前にCDが送られてきた。
題名は「ダイヤモンドリリー」。本当に洒落たことをしてくると、翔奏から送られてきたときにはため息が零れた。今回はきっと、深桜の分もということだろう。同じものがサイン入りで、二枚入っていた。
きっと深桜は、予約してるだろうけど、翔奏がそうしろと言っているなら渡すしかない。
発売日よりも、数日前にはなるけれど、深桜に一枚、翔奏のCDを講義室で渡した。
「すごい! これサイン入りですか?!」
歓喜の声をあげ続ける深桜を無視して、俺はピアノの蓋を持ち上げた。窓から入る風で、深桜から貰ったネクタイが、胸の上で軽くはためく。
「ダイヤモンドリリー? いったいどういう意味だろう?」
深桜がジャケットを掲げて、目を輝かせ、小首を傾げた。
「花の名前だよ」
「花?」
不思議そうに首を傾げたままの深桜と、視線がぶつかる。
「歌詞を読んだら分かるかもな」
あの車には、何度か乗ったことがあるし、今まで付き合った人たちの中で、一番安らげた場所だった。
今、彼女はどうしているんだろう。
そんなことを思ったら、ふっと口の端に笑みが零れた。
きっと今も昔も変わらず、真っすぐ仕事に向かって進んでいっているに違いない。
スポーツカーが見えなくなっても、俺はその先をぼんやりと眺めた。
彼女にも辛い思いをさせてしまって申し訳ないけど、今まで付き合ってきた中では、たぶん一番好きだったと思う。彼女が年上だからかもしれないが、気を張らずにいられたし、居心地がよくて、一番長く付き合えた。
仕事から少しでも離れることができる場所を、俺は彼女に創れただろうか。
俺と一緒にいるとき、彼女を少しでも癒すことができていたなら、それでよかった。彼女がそう思っていてくれたら、俺の気持ちも救われる。
俺にとって深桜の次に大切な女の人だったから――。
「智歌くん。どうしたの?」
不思議そうに覗きこんでくる彼女を、幸せにできるか分からない。
今でも翔奏の方が、俺より幸せにできたかもしれないと不安に思っている。
でも、彼女が俺を選んでくれたから、俺も嘘を吐かずに、これからは誰よりも深桜を幸せにしていこうって、自然とそういう気持ちが広がっていった。
♮
それからしばらくたって、翔奏がまた新曲を出すらしく、発売日前にCDが送られてきた。
題名は「ダイヤモンドリリー」。本当に洒落たことをしてくると、翔奏から送られてきたときにはため息が零れた。今回はきっと、深桜の分もということだろう。同じものがサイン入りで、二枚入っていた。
きっと深桜は、予約してるだろうけど、翔奏がそうしろと言っているなら渡すしかない。
発売日よりも、数日前にはなるけれど、深桜に一枚、翔奏のCDを講義室で渡した。
「すごい! これサイン入りですか?!」
歓喜の声をあげ続ける深桜を無視して、俺はピアノの蓋を持ち上げた。窓から入る風で、深桜から貰ったネクタイが、胸の上で軽くはためく。
「ダイヤモンドリリー? いったいどういう意味だろう?」
深桜がジャケットを掲げて、目を輝かせ、小首を傾げた。
「花の名前だよ」
「花?」
不思議そうに首を傾げたままの深桜と、視線がぶつかる。
「歌詞を読んだら分かるかもな」
