こうやって彼女の帰りを待っていたものの、いざこうして帰ってきたらどうしていいか分からない。
彼女の隣りに翔奏がいたら、もう俺の居場所はない。
もう終わりだ。俺は長い夢から覚めるために、そっと後ろを振り返った。
「先輩。ただいまです」
深桜は、数段先の階段で立ち止まり、ピシッと右手をおでこに当てて、敬礼の真似をした。
でもその顔は警察官みたいに厳ついものではなく、おどけたような顔で笑っていた。
「深桜。お前……」
その隣りに、翔奏の姿はなかった。彼女の後ろにも、誰もいなかった。
深桜が、一人で俺の所に戻ってくるかもしれないという希望は捨てられないにしろ、てっきり俺は、翔奏と帰ってくると思っていた。
でも、彼の姿はどこにもない。深桜の後ろには、寂しげな暗闇が広がっているだけだった。
「先輩。ありがとうございました。翔奏さんに会わせてくれて。二人が本当にお知り合いだったなんて、びっくりしましたよ。……翔奏さんに会うまで、先輩の言うこと半分くらい信じてなかったですから」
「……ちゃんと会えたのか? 話せたか?」
ちゃんと深桜は翔奏に会えたと言ったのに、その光景が信じられなくて、俺はてっきり翔奏とまだ来ていないのかと思った。
頭がぐちゃぐちゃになって、考えようとしてもまとまらない。
でもそんな混乱を、深桜が浮かべた満面の笑みが、少しずつ鎮めていった。
「はい! いろいろお話もして楽しかったです。それに……」
「それに?」
「自分の気持ちに気づけた気がします」
その言葉に、ぞわっとした胸騒ぎが広がった。それはもしかして、翔奏と共に行くということだろうか。
不安と絶望が渦巻く中、俺は先を促した。
「それ、どういうことだよ」
「やだな。智歌先輩。……先輩言ったじゃないですか? 私のこと……待っているからって」
深桜がいきなり俯いてむずむずしはじめ、俺は初めて彼女が言おうとしていることが分かった。
「……深桜」
俺は突然のことに驚き、ふらふらと石段を上り、深桜との距離を縮めた。
俺は確かにここで言ったのだ。「待っているから」と。
無意識に零れた形のない約束。それを深桜は、ちゃんと受け止めてくれたのだ。本当の意味を含めて、彼女は俺の気持ちに気づいてくれた。
そして、戻ってきてくれたのだ。翔奏のところではなく、俺の隣りに……。
「先輩……私」
彼女の隣りに翔奏がいたら、もう俺の居場所はない。
もう終わりだ。俺は長い夢から覚めるために、そっと後ろを振り返った。
「先輩。ただいまです」
深桜は、数段先の階段で立ち止まり、ピシッと右手をおでこに当てて、敬礼の真似をした。
でもその顔は警察官みたいに厳ついものではなく、おどけたような顔で笑っていた。
「深桜。お前……」
その隣りに、翔奏の姿はなかった。彼女の後ろにも、誰もいなかった。
深桜が、一人で俺の所に戻ってくるかもしれないという希望は捨てられないにしろ、てっきり俺は、翔奏と帰ってくると思っていた。
でも、彼の姿はどこにもない。深桜の後ろには、寂しげな暗闇が広がっているだけだった。
「先輩。ありがとうございました。翔奏さんに会わせてくれて。二人が本当にお知り合いだったなんて、びっくりしましたよ。……翔奏さんに会うまで、先輩の言うこと半分くらい信じてなかったですから」
「……ちゃんと会えたのか? 話せたか?」
ちゃんと深桜は翔奏に会えたと言ったのに、その光景が信じられなくて、俺はてっきり翔奏とまだ来ていないのかと思った。
頭がぐちゃぐちゃになって、考えようとしてもまとまらない。
でもそんな混乱を、深桜が浮かべた満面の笑みが、少しずつ鎮めていった。
「はい! いろいろお話もして楽しかったです。それに……」
「それに?」
「自分の気持ちに気づけた気がします」
その言葉に、ぞわっとした胸騒ぎが広がった。それはもしかして、翔奏と共に行くということだろうか。
不安と絶望が渦巻く中、俺は先を促した。
「それ、どういうことだよ」
「やだな。智歌先輩。……先輩言ったじゃないですか? 私のこと……待っているからって」
深桜がいきなり俯いてむずむずしはじめ、俺は初めて彼女が言おうとしていることが分かった。
「……深桜」
俺は突然のことに驚き、ふらふらと石段を上り、深桜との距離を縮めた。
俺は確かにここで言ったのだ。「待っているから」と。
無意識に零れた形のない約束。それを深桜は、ちゃんと受け止めてくれたのだ。本当の意味を含めて、彼女は俺の気持ちに気づいてくれた。
そして、戻ってきてくれたのだ。翔奏のところではなく、俺の隣りに……。
「先輩……私」