俺はため息を吐いて、全身の力が抜けたように、寺の縁にどかっと足を投げ出して、寝そべった。
 目を閉じて、組んだ腕を頭に乗せる。
 風が通り過ぎる音と、虫の声以外、何も聞こえない。
 久しぶりにこんな静かなところに来た気がする。この村を離れたときは、この寺に来ることはできないと思っていたけど、今はまたここに来たいって思えた。
「もう終わりかしら」
「っ!」
いきなり頭上から聞えた声に、俺はびっくりして身体を起こした。
 心臓は、ばくばくと脈を打ち、見開かれた目に、沖浦さんが仁王立ちして立っている姿が映って、脈がまた速くなった。
 どうして、彼女がこんなところにいるんだろう?
 それにものすごい形相で、こちらを睨んでいる。
 その気迫と恐怖で、俺は足に力が入らず、立つことができなかった。
「沖浦さん。どうしてここに? もしかして、見てたんですか? もしそうなら、悪趣味ですよ!」
頭がパニックになって、場違い極まりない軽口が出て、俺は慌てて口を押さえた。
 でも、もう遅かった。俺の声はばっちり沖浦さんに聞こえたみたいで、彼女の目がすっと細くなった。
 その視線に背筋がぞっとして、冷や汗がすっと流れた。
「悪趣味で悪かったわね! 打ち上げの後、部屋に戻ったあなたが、ホテルを抜け出したのが見えたのよ。私もちょうど車で移動しようとして、駐車場にいたから助かったわ。
それで、もしかしたらと思ってつけてきたら、タクシーに乗って、どこかへいったかと思えば、この通り。何が、『最終日は、疲れていると思うから、打ち上げは短めで調整してほしい』よ。ここに来る元気があるということは、それはここに来る口実と受け取って間違いないかしら?」」
 ドスの利いた声にますます身体が小さくなり、返事をすることができず、俺はこくりとうなずくことしかできなかった。
彼女は本格的に、俺を問い詰めるように、腕を組んだ。 
 どうにかして話を逸らしたいけれど、どう逸らしていいか、全く言葉が浮かばない。
 考えを巡らせても、その答えは、一向に出てこなかった。
「……いつからですか?」
「最初からよ。あなたに気づかれないように、石段ではなくその横を上ってきたのよ」
よく見たら、彼女の身体の細さを強調するようなスーツが汚れていた。
 ズボンの端には跳ねた泥がついているし、枝から零れた葉のかけらが上着についていた。