「翔奏さん。それどういうことですか?」
不思議そうな顔で、俺を見上げる彼女に気づかないふりをして、俺は階段の方に目を向けた。もう彼女と過ごす時間は、これで最後になるだろう。
そんな気がする。
でも、これからも彼女が俺の歌を聴いて、想いを受け取ってくれたらそれでいい。報われない恋だけれど、これからもずっと俺は歌い続ける。
彼女と別れるのは名残惜しいけれど、ここで別れなければずるずる引き延ばして、余計に悲しくなる。
どこかで、この想いを断ち切らなければいけない。それが今なんじゃないかって、俺は思った。
「ありがとうっていう気持ちを伝えたかっただけ。それより、そろそろマネージャーが迎えにくるかも。こっそり抜け出してきたから、今、頃探してるだろうし。こんなところ見られたら、大変だから、もう智歌のとこに帰った方がいいよ」
「また会えますか?」
彼女も俺と離れるのは、名残惜しいのだろう。
でも、彼女から自然に零れた言葉は、「まだ一緒にいたい」という言葉ではなかった。
それはきっと、彼女の心の中に智歌がいるからだろう。悔しいけれど、彼女の隣りにいるべきなのは俺じゃない。
「いつでも会えるんじゃない? 深桜ちゃんが俺の曲を聴いてくれれば」
初めて彼女の名前を口にした声は、ぎこちなかったけど、不思議と違和感はなかった。
恥ずかしかったけれど、それが自然な感じがした。
今、目の前にいる彼女は、俺の知っているちぃではないのだから……。
「そうですね。今日はありがとうございました」
「こちらこそ逢えてよかった。それで、もしよかったら、智歌にもお礼伝えてくれる? ありがとうって」
「はい! ではまた」
彼女は軽く頭を下げて、手を振ってその場を離れて行った。
彼女の歩いている道は、月に照らされていて明るい。きっと、もう転んだりしないだろう。彼女の足取りはしっかりと大地を蹴りあげている。
彼女は一度階段を降りるときに振り返って、もう一度手を振った。その顔は遠くから見ても朗らかに笑っている。
俺も軽く手を振り返して、彼女の姿が見えなくなるまで、その背中を見送った。
「ちぃ。今度は転ばないように気を付けてね。あの時、逃げてしまって、本当にごめん」
俺は、彼女の背中に、小さくそう呟いた。
その声は、もちろん彼女には届かない。
不思議そうな顔で、俺を見上げる彼女に気づかないふりをして、俺は階段の方に目を向けた。もう彼女と過ごす時間は、これで最後になるだろう。
そんな気がする。
でも、これからも彼女が俺の歌を聴いて、想いを受け取ってくれたらそれでいい。報われない恋だけれど、これからもずっと俺は歌い続ける。
彼女と別れるのは名残惜しいけれど、ここで別れなければずるずる引き延ばして、余計に悲しくなる。
どこかで、この想いを断ち切らなければいけない。それが今なんじゃないかって、俺は思った。
「ありがとうっていう気持ちを伝えたかっただけ。それより、そろそろマネージャーが迎えにくるかも。こっそり抜け出してきたから、今、頃探してるだろうし。こんなところ見られたら、大変だから、もう智歌のとこに帰った方がいいよ」
「また会えますか?」
彼女も俺と離れるのは、名残惜しいのだろう。
でも、彼女から自然に零れた言葉は、「まだ一緒にいたい」という言葉ではなかった。
それはきっと、彼女の心の中に智歌がいるからだろう。悔しいけれど、彼女の隣りにいるべきなのは俺じゃない。
「いつでも会えるんじゃない? 深桜ちゃんが俺の曲を聴いてくれれば」
初めて彼女の名前を口にした声は、ぎこちなかったけど、不思議と違和感はなかった。
恥ずかしかったけれど、それが自然な感じがした。
今、目の前にいる彼女は、俺の知っているちぃではないのだから……。
「そうですね。今日はありがとうございました」
「こちらこそ逢えてよかった。それで、もしよかったら、智歌にもお礼伝えてくれる? ありがとうって」
「はい! ではまた」
彼女は軽く頭を下げて、手を振ってその場を離れて行った。
彼女の歩いている道は、月に照らされていて明るい。きっと、もう転んだりしないだろう。彼女の足取りはしっかりと大地を蹴りあげている。
彼女は一度階段を降りるときに振り返って、もう一度手を振った。その顔は遠くから見ても朗らかに笑っている。
俺も軽く手を振り返して、彼女の姿が見えなくなるまで、その背中を見送った。
「ちぃ。今度は転ばないように気を付けてね。あの時、逃げてしまって、本当にごめん」
俺は、彼女の背中に、小さくそう呟いた。
その声は、もちろん彼女には届かない。