そんな顔をされては断れないし、元から断る気なんて全くない。
「何? 俺に分かることなら答えるよ」
俺が振り返ってにっこりと微笑むと、彼女は照れたように視線を外して、ぎゅっと両手を握った。
緊張のためか、そのまま固まってなかなか声が出ないようだ。
そんな様子が微笑ましくてずっと見ていたら、決心がついたように一度ぎゅっと唇を結んで、彼女は勢いよく顔を上げた。
「そのちぃっていう子は、私なんですか?」
その瞳に薄らと戸惑いの色が浮かぶ。その気持ちを表すかのように、彼女は言葉を慌ててつけ足した。
「智歌先輩が、いきなりちぃって昔みたいに呼んだりして、それで先輩は、私をその翔奏さんが想ってる人だって思ってて。私、たぶん翔奏さんとはこうして会うのは初めてなのに……それで」
「うん。違うよ。智歌も勘違いしてるみたい。智歌も俺が好きなのは、君だって思ってる。でも違うんだ。ちぃはちぃでも、俺が好きなのは君じゃない」
俺は星に向かって言うみたいに、空を見上げてそう語った。それは嘘だけれど、嘘ではないのかもしれない。
俺がずっと好きだったのは、今隣りにいる彼女ではなく、幼い頃に助けられなかったちぃという、小さい女の子なのだ。彼女だけど、彼女じゃない。
でもそれを言葉にするのは辛かったし、少しだけそれを告げたことに後悔が滲んだ。
「それからもう一つは?」
俺はそのもやもやした気持ちを誤魔化すように、話を切り替えた。今度は、彼女は顔を俯かせて、言い淀んでいる様子だった。
「どうして私に逢いたいなんて思ったんですか?」
すっと顔を上げた彼女の頬は、少し赤みを帯びていて、必死に訴えかけるような瞳が大きく開いている。
俺の返事が待ちきれないのか、固く結ばれた手と同じように、口元もしっかりと閉ざされている。
俺は一歩彼女に近づくと、座ったままの彼女を愛おしい眼差しで見つめた。
でも手を出すまいと、俺はまたズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「智歌の彼女に会ってみたかったからかな」
「なっ……私、智歌先輩の彼女なんかじゃないですよ!」
彼女は、俺に飛びつく勢いで立ち上がり、何度も首を横に振った。
そんなに強く否定されると、いつもは澄ました顔をしている智歌でも傷つくだろう。
彼女の仕草が何だかおかしくて、俺は小さく笑い声を上げた。
「そんなに慌てなくても分かってるよ。冗談」
「何? 俺に分かることなら答えるよ」
俺が振り返ってにっこりと微笑むと、彼女は照れたように視線を外して、ぎゅっと両手を握った。
緊張のためか、そのまま固まってなかなか声が出ないようだ。
そんな様子が微笑ましくてずっと見ていたら、決心がついたように一度ぎゅっと唇を結んで、彼女は勢いよく顔を上げた。
「そのちぃっていう子は、私なんですか?」
その瞳に薄らと戸惑いの色が浮かぶ。その気持ちを表すかのように、彼女は言葉を慌ててつけ足した。
「智歌先輩が、いきなりちぃって昔みたいに呼んだりして、それで先輩は、私をその翔奏さんが想ってる人だって思ってて。私、たぶん翔奏さんとはこうして会うのは初めてなのに……それで」
「うん。違うよ。智歌も勘違いしてるみたい。智歌も俺が好きなのは、君だって思ってる。でも違うんだ。ちぃはちぃでも、俺が好きなのは君じゃない」
俺は星に向かって言うみたいに、空を見上げてそう語った。それは嘘だけれど、嘘ではないのかもしれない。
俺がずっと好きだったのは、今隣りにいる彼女ではなく、幼い頃に助けられなかったちぃという、小さい女の子なのだ。彼女だけど、彼女じゃない。
でもそれを言葉にするのは辛かったし、少しだけそれを告げたことに後悔が滲んだ。
「それからもう一つは?」
俺はそのもやもやした気持ちを誤魔化すように、話を切り替えた。今度は、彼女は顔を俯かせて、言い淀んでいる様子だった。
「どうして私に逢いたいなんて思ったんですか?」
すっと顔を上げた彼女の頬は、少し赤みを帯びていて、必死に訴えかけるような瞳が大きく開いている。
俺の返事が待ちきれないのか、固く結ばれた手と同じように、口元もしっかりと閉ざされている。
俺は一歩彼女に近づくと、座ったままの彼女を愛おしい眼差しで見つめた。
でも手を出すまいと、俺はまたズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「智歌の彼女に会ってみたかったからかな」
「なっ……私、智歌先輩の彼女なんかじゃないですよ!」
彼女は、俺に飛びつく勢いで立ち上がり、何度も首を横に振った。
そんなに強く否定されると、いつもは澄ました顔をしている智歌でも傷つくだろう。
彼女の仕草が何だかおかしくて、俺は小さく笑い声を上げた。
「そんなに慌てなくても分かってるよ。冗談」