彼女の瞳は戸惑いからか、どこか遠くを見ているような感じだった。
でも、その瞳には、ちゃんと俺が映っている。
やっと彼女に言える。ずっとずっと言いたくてたまらなかったことを――。
「……ちぃのことが好きだって」
彼女は微かに目を大きく開いたあと、さっと俺から視線を外した。
その表情が苦しげで、癒したくて、何度も抱きしめたくなる衝動を抑えた。
ちぃが、そんな顔をすることはないと、また小さな身体を包み込みたい。
でも、もう俺にはこうやって手を繋ぐこと以上のことは、許されない。
「でも……言えなかったんですね。その子に」
「うん」
彼女の声は沈んでいて、でもはっきりとした声だった。
彼女のことなのに、ちぃは自分ではない誰かをきっと思い描いているのだろう。
俺の悲しみを必死で理解しようとするその優しさだけで、俺の心は充分満たされていく。
「……いろいろ雑誌とか読みました。翔奏さんの昔のこと。その子への想いを歌にしていることも」
彼女がそっと顔を上げて、さまよっていた視線が真っすぐ俺に向けられた。
憐れみや同情、そこから生まれてくる悲しみや切なさの混じった瞳だった。
「そっか。ちゃんと俺の気持ちは伝わってたんだね」
「えっ?!」
俺の微笑みから漏れたその言葉に、彼女は不思議そうに首を傾げた。
もうこれで終わりなのだろう。
自分の気持ちを彼女に言えたし、それがどんな形であれ、伝わっていたならそれでいい。
彼女からの同情は、必要ない。
俺の心はもうこんなに軽くなっているのだ。もう思い残すことなんてない。
ちぃに逢ったら嘘は吐かないと決めていたけど、これ以上、彼女を困惑させるわけにはいかない。俺は口の端に笑みを零して、首を横に振った。
「ううん。君に伝わってるってことは、ちゃんとその子にも伝わってるってことだから。俺の歌をちゃんと聴いてくれているなら」
俺は最後に満面の笑みを浮かべてから、そっと彼女の手を離し、勢いよく立ちあがった。
もう彼女の手も握れない。握ってはいけない。
名残惜しくはあるけれど、その想いは歌にして返そう。今までのように、気持ちを歌にのせて、空を翔ぶように軽やかに……。
「あの翔奏さん。一つ……いえ、やっぱり二つだけお訊ねしたいことがあるですが、……いいですか?」
彼女は縁に座ったまま、やや上目使いで俺の瞳を見上げた。
でも、その瞳には、ちゃんと俺が映っている。
やっと彼女に言える。ずっとずっと言いたくてたまらなかったことを――。
「……ちぃのことが好きだって」
彼女は微かに目を大きく開いたあと、さっと俺から視線を外した。
その表情が苦しげで、癒したくて、何度も抱きしめたくなる衝動を抑えた。
ちぃが、そんな顔をすることはないと、また小さな身体を包み込みたい。
でも、もう俺にはこうやって手を繋ぐこと以上のことは、許されない。
「でも……言えなかったんですね。その子に」
「うん」
彼女の声は沈んでいて、でもはっきりとした声だった。
彼女のことなのに、ちぃは自分ではない誰かをきっと思い描いているのだろう。
俺の悲しみを必死で理解しようとするその優しさだけで、俺の心は充分満たされていく。
「……いろいろ雑誌とか読みました。翔奏さんの昔のこと。その子への想いを歌にしていることも」
彼女がそっと顔を上げて、さまよっていた視線が真っすぐ俺に向けられた。
憐れみや同情、そこから生まれてくる悲しみや切なさの混じった瞳だった。
「そっか。ちゃんと俺の気持ちは伝わってたんだね」
「えっ?!」
俺の微笑みから漏れたその言葉に、彼女は不思議そうに首を傾げた。
もうこれで終わりなのだろう。
自分の気持ちを彼女に言えたし、それがどんな形であれ、伝わっていたならそれでいい。
彼女からの同情は、必要ない。
俺の心はもうこんなに軽くなっているのだ。もう思い残すことなんてない。
ちぃに逢ったら嘘は吐かないと決めていたけど、これ以上、彼女を困惑させるわけにはいかない。俺は口の端に笑みを零して、首を横に振った。
「ううん。君に伝わってるってことは、ちゃんとその子にも伝わってるってことだから。俺の歌をちゃんと聴いてくれているなら」
俺は最後に満面の笑みを浮かべてから、そっと彼女の手を離し、勢いよく立ちあがった。
もう彼女の手も握れない。握ってはいけない。
名残惜しくはあるけれど、その想いは歌にして返そう。今までのように、気持ちを歌にのせて、空を翔ぶように軽やかに……。
「あの翔奏さん。一つ……いえ、やっぱり二つだけお訊ねしたいことがあるですが、……いいですか?」
彼女は縁に座ったまま、やや上目使いで俺の瞳を見上げた。