いくら無理やりとはいえ、お金を払わないというのも何だか気が引けてしまう。でも頼まれたことをあっさり断れるほど私は強くなかった。
 言葉を濁しても、千歳さんに懇願されては断れない。
「お願い。深桜! 時間になったらすぐ帰っていいから。二時間だけいてくれればいいから」
すがる様な声に私はどうすることもできず、ここは行くしかないだろうと固い決意を心に刻んだ。
「……わかった。でも私っ」
「分かってるって。ちゃ~んと深桜には、好きな人いるもんね~」
千歳さんが私の言葉を遮って続けたけど、何だかそれが恥ずかしかった。
 千歳さんが冗談で口にした好きな人は、翔奏のことを指している。
「……好きな人とかそういうのじゃないよ。ただのファンだもん」
口ごもりながらもそう答えたものの、一次審査に通らなかったことが頭をよぎり、また寂しさが滲み出てくる。
「とにかく、決まりね! 時間とかは近々メッセージ送るから。ちゃんと来てね」
「うん。分かった」
その後は適当な会話をして、電話を切った。「大丈夫」とは言ったものの、正直気は重い。
 私は、イヤホンとスマホを机に置き、そっとため息をついた。
 そういえば千歳さん。何も小説賞について言わなかったけど、まだ結果を見ていないのかな。
 ふとそんなことを思ったけれど、私の見た限り彼女の名前はなかった。だからたぶん彼女と会っても、私からその話を持ちかけたりはできないだろう。こういうことは、他人から訊くよりも、自分で知らなきゃいけない気がするからだ。

 合コン当日。私は大学の授業を終えて、そのまま待ち合わせ場所に向かい、集まった人たちの後ろを一人歩いた。
 ほとんど初対面なのに、どこか楽しげに話す人たちが羨ましかった。私はこの中で千歳さん以外の人を知らない。幹事である彼女は、男の子側の幹事と道案内のためか先頭を歩いている。人見知りする私には、この中に一人で飛び込むこともできない。
「みんなここだよ~」
千歳さんが私まで聞こえるような声でお店を指さして、みんなを中に入れた。
 そして私は入口で待っていた千歳さんと一緒にお店に入った。
 男女が向かい合おうように座って、「クロネコ屋」という居酒屋でいよいよ私にとって初の合コンが始まった。順番に自己紹介して、その後は会話を交えながらご飯を食べて、みんなの酔いが回った頃にカラオケボックスに移動した。