それにこういう流れの会話で行き着く先は大抵決まっているから──……
「……紗都」
「ちょ…どこ触ってんの」
「だってさぁ……シたくなった」
「!」
「熟睡していた紗都にはデキなかったから溜まってんの」
「そ、そういう言い方──」
ストレートに求められてじわじわと頬が熱くなる。
食事そっちのけで私に覆い被さって来た彼に一応文句を言いながらもされることに対して本気で抵抗出来ない。
「紗都、マジ大好き」
「んっ」
強く唇を押し当てられて口を開かされた。
「あっ……んぅ」
「んっ、甘いよ……紗都」
「……甘いのは雅生の声だよ」
「ん?」
「何のキャラも演じていない素の雅生の声が甘くて好き」
「紗都…そんな可愛いこといったらマジキスだけで治まんない」
「最初からそのつもりなかったでしょ?」
「ふはっ、正解」
絡みつく熱を交わしながらくっつく面積が徐々に広がって行く。
「ねぇ、今日、仕事は?」
「午後から。紗都は?」
「日曜日だから休みだよ」
「あー……俺、声優になってから曜日感覚ズレてるかも」
「まぁ不定休の仕事だもんね」
「……悪いな」
「なんで謝るの」
「……ごめん、なんでもない」
「変なの」
彼が何を言いたかったのか、そんなのは分かり切っているから今更そこから先の会話は広がらない。
会社勤めのように決まった定休日があるわけじゃない職種に就いた当初、彼はよく私に謝っていた。土日休みの私に合わせて休めないから普通のカップルのようにデートが出来ないと。
だけど私はそのことに対して一切の不満はなかった。そもそも普通のカップルのようにという言葉自体おかしい。
世の中全てのカップルが土日デートしているわけじゃないし、デートが出来ないから普通のカップルじゃないということでもない。
そんなことよりも私の彼氏が彼でよかったと思うし、土日デート出来るカップルよりも幸せだと思っている。まぁ、私たちよりも幸せなカップルは世の中にごまんといるだろうけれど。
つまりはそういうことだ。
「こうやって隙間時間に逢いに来てくれるの、嬉しいよ」
「……そっか」
「うん」
そこから会話は途切れた。彼から与えられる甘い刺激が私から喘ぎ声しか出せなくなったから。
ごく近いところから囁かれる彼の声は大好きな推しキャラのリュウと同じ。だけど不思議とこの行為によって発せられる声は私がよく知る南海雅生の声。
どんなキャラクターの声でもない、幼い頃の少し高い声から声変りを経て定着した独特の深みのある雅生自身の馴染み深い声が私を熱くさせた。
そうして私たちは私たちだけの世界で甘い時間を過ごした。
それはもう、ごくごく普通のカップルのようにまるでこの世の中に私たちしかいないと錯覚するような甘い時間を──……。
sweet voice(終)