だけど正直その時の私は彼に対して友だちとしての気持ち以上のものは持っていなかった。

初めて男子から告白されたという初体験からのドキドキはあったけれどそれだけだった。だから告白に対する返事は「ごめんなさい」だった。

そんな返事に対して彼はとても憤っているようだった。そして何を思ったのか私を更にドキドキさせる言葉を言い放った。

「じゃあ俺が声優になっておまえの好きなキャラをやったら彼女になれよ!」

彼のこの捨て台詞的告白は盛大に私の心臓を打ち抜いた。だって私は生粋のオタクだったから。

彼が知る私は根っからのアニメオタクだった。だからこそこんな私を好きだといった彼はおかしいと思ったし、この歳になるまでリアルな男子にときめいたことなんかなかった。

それ故に断った告白だったのに彼はしぶとく「声優になる」と言ったのだ。

そこまでしてなんで私なんかを──と思ったけれど彼が宣言通り声優になって私の推しキャラを担当することなんて万が一にもないと思ったので彼の意志表明に対して「うん」と答えたのだった。

(そんなに簡単に声優になんかなれるわけないじゃない)

私のその考えは正しいだろう。今や人気の職業として挙げられる声優にそんなに簡単になれるわけがない。

しかも例え声優になれたとしてもその時私が好きなアニメ、その中でも推しキャラの声を担当するだなんて高額宝くじの一等を当てるくらい難しいことだ。

だから全然期待していなかった。友だちのひとりとして頑張れとさえ言わなかった。

ただ、声優事務所が運営する養成所に通い始めてからも彼とは友だちとして付き合いは続いていた。

大学に通う私と養成所に通う彼は時間があれば飲みに行ってお互いの近況を話したり訊いたりした。

そんな中で私は徐々に彼に対して友だちとは違った感情を抱くようになって行った。一番近くで私のために頑張っている彼を見ているうちに恋……してしまったのだ。

例え彼が声優になれなくても付き合いたいと思ってしまった。だから今度は私の方から彼に告白した。「声優になれなくてもいいから付き合いたい」と。

私の告白に彼は喜んでくれた。だけど交際には発展しなかった。何故ならこの時にはもう、声優になることが彼自身の夢、目標になっていたから。

私のこととは別に声優になりたいと思ったからこそ声優になるまでは私とは付き合えないと一種の願掛けをしていたようだ。

そんなわけで私たちはお互い両想いでありながらも彼氏彼女にはなれないという期間が4年程あった。

そうして私が大学を卒業して就職するタイミングでひとり暮らしを始めた頃、彼は念願叶って声優になった。

更に驚いたことに声優になって1年も経たないうちに私が好きだった漫画がアニメ化になり、その作品の中で一番好きなキャラクターを彼が演じることになったのだ。