「で、その貴重な男子ふたりに女子が群がってるわけだ」
「群がるって……」
 さすがに言葉が悪くて由梨は口ごもる。でも。
「なんか、きゃいきゃいやってるんだよねー。声のトーンなんか上がっちゃってさー」
「ははは」
「……気持ち悪い」

 言いすぎかな。思ったけど美紀は咎めたりはしなかった。
「まあ、しょうがないよね。由梨は男嫌いだもんね」
「そんなことないですう」
「好きな人できたら教えてよね」
 同級生のくせにおねえさん顔で諭されて由梨はくちびるを噛む。

「美紀ちゃんはどうなのさ? いい人いないの?」
「言ったでしょ。一緒に仕事するのは既婚者のおじさんおばさんばっかり」
「でも他にも社員はたくさんいるでしょう?」
「だから。うちは黙々と自分の仕事だけやってればいい職場なの。人との接触自体そんなにないんだって」
「わたしもそうならよかったのに」

 ずずっと体を崩して由梨は落ち込む。明日からはいちばん嫌いな朝勤が四日間続く。日勤の社員たちとも一緒になるから神経を使うのだ。
「あそこってさ、社員のおじさんたちもやたらフレンドリーでさ。いちいち話しかけてくるんだよね」
「若い女の子が好きなんでしょ」
「気持ち悪い」
「しょうがないよ」

「……なんかさ。煩わしいのが嫌で逃げてきたのに、やっぱり煩わしいんだよね」
「うん」
「どこに行っても同じなんだよね。仕事そのものよりもさ、人に慣れなきゃ駄目なんだよね」
「そうだねえ。でも人だってさ、いつまでいるかだってわからないんだから」
「そっか」
「自分の仕事をきちんとしてればいいんだよ」
 おねえさんぶって諭されるのはどうかと思ったが。

「そうだね」
 せめて、ぴりぴりトゲトゲしないように。
「でも、やだなあ」
「次の休みは何食べに行く?」
「肉行こう。肉!」
「はいはい。それじゃあ、肉を楽しみに頑張って」

 ひとり暮らしのボロアパートまで美紀のクルマで送ってもらい、由梨はありがとうとおやすみを言った。
「おやすみ」
 運転席から手を振って美紀のクルマが路地を曲がっていく。
 まだ気分は興奮していて眠れる気がしない。だけど明日は七時から仕事が始まる。由梨は二階の自分の部屋に向かいながら大きなため息を落としてしまった。