夏が終わる瞬間は8月31日の23時59分だと思う。

 花火大会が終わるように夏は盛大に終わり、余韻を残す。そういった意味で、夏は私にとっていつも余韻を感じられるし、その瞬間が8月31日の23時59分だと思っている。

 この夏も、私は誰かと花火大会に行くことで寂しさを埋めることはできなかった。

 フリーターになって2年も経つ。
 つまり、私はすでに高校を卒業して2年も経っていて、このコンビニで働いて、2年弱になる。

 去年までは浪人して、大学入試を目指していた。

 ――だけど、今年の3月にすべての結果がわかり、自分のプライドの高さや、何に対して頑張っているのかわからなくなり、4月からすべて辞めてしまった。



 「いらっしゃいませー」

 客が入店して、チャイムが鳴ったから、私は機械的棒読みで挨拶をした。

 私は20時の廃棄チェックをしている。夕方のラッシュは一通り終わり、店内は数人の客と、レジにいる高校生の彼だけだった。
 彼は私より3つ年下で、今、2年生だ。この店でバイトを初めてまだ3ヶ月くらいしか経っていない。

 この彼は22時で仕事を終えると、私は深夜帯のハゲたおじさんと23時59分まで一緒だ。
 この店は人数が少ないから、深夜帯は基本、一人で店を回している。


 
 だから、22時以降、私はそのおじさんにこき使われることとなる。もちろん、2人体制のうちに終わらせる仕事を終えるという意味で仕事を詰められている。
 しかし、このおじさんの場合、22時から0時までの間に深夜帯にやる仕事をほぼすべて片付けてしまう。

 その理由は、仕事を片付け、0時からひとり体制になった途端、フライヤー室にこもり、たばこを吸って、スマホでソシャゲして過ごしているのだ!



 しかも、それで深夜帯だから時給1300円を超えている!



 だから、私は今、すごく憂鬱な気分だった。あのおじさんがソシャゲでレベル上げをするために私が最後の2時間頑張らなくちゃいけないのが、すごく嫌だった。

 なぜ私がそのことを知っているかと言うと、あのおじさんが自慢げに深夜帯はいいよって言ったからだ。

 これだけレベル上がったんだよとわざわざ私にゲーム画面を見せてきた。

 私はきゃぴきゃぴしたふりをして、
 「わぁ、すごいですねぇ」とかわざと高めの声を出して答えたけど、内心、すごく腹が立った。

 時間帯が違えばこんなに違うものかと思った。

 そんな苛立ちを思い出しながら、私はおにぎりと弁当、サンドイッチの廃棄チェックを終わらせた。

 そして、私は、入口上についている販促用の横断幕を取り替えなくちゃいけないことを思い出した。31日で夏のキャンペーンが終わるから、取り替えてねと日勤だったオーナーに言われていた。







 レジに戻り、高校生の彼に横断幕、取り替えてくるねと言ったら



 「俺、やりましょうか?」
 って言われたけど、アンタ、取り替え方わからないでしょ。

 結局教えるの私だよ。と思いながら

 「いいよ、私やるからレジ見てて。あと、レジ。仮点検しといて」と伝えた。



 バックルームに行き、取り替える横断幕を手にとった。
 折りたたまっている横断幕には「秋、実」と書かれていた。「実」の先の文章は折りたたまれていてわからなかった。どうせ次の文字は「り」が来ることは答え合わせをしたあとの”なぞなぞ”のように単純だった。

 店の外に出て、客がいない隙を見計い、水色の古い横断幕をおろした。そして、オレンジの新しい横断幕を取り付けた。2年のうちにもう、何度もやった作業だから、少しコツがいるこの作業を淡々とこなした。

 やることがなくなり、レジに戻ると彼が話しかけてきた。



「仮点検終わってます。あれ、取り替えるの難しそうですよね」
「あー、慣れたらすぐ取り替えれるよ」
「そういうもんなんですね。はぁ、明日から学校ダルいです」彼はいきなり、自分の話題にすり替えた。

「そっか、明日から学校なんだ。大変だね」私は気にかけているようにそう言った。
「バイトからの学校、結構つらいんですよね。身体、ヤバいです。いらっしゃいませー」彼はそう言って、会計に来た客を接客し始めた。
 客が「57」と言ったので、私は煙草の棚から、ラークの6ミリロングを取り出し、客に確認し彼に渡した。







 会計が終わると、彼はまた私に話しかけてきた。

「煙草とるの早いですよね。俺、煙草のレベル低いんで助かりました」
「レベルって。まだ3ヶ月だからね。仕方ないよ」私は笑いながらそう言った。
「マジで俺、レベル足りないもん。学校なんか行ってられないですよ。学校行くぐらいなら煙草の番号覚えたほうが今の俺にとって、有益です」
「学校ダルよね」私がそう言うと彼は驚いた表情をした。

「まさか、そんなセリフ聞けるとは思わなかったです。てっきり真面目なのかと思ってた」
「学校嫌いだから、私、フリーターやってるんだよ」私は笑いながらそう言った。彼が来て以来、初めて親近感を覚えた。
「なんか、意外に合いそう。感覚的に」
「意外も何も、私はそんなもんだよ」私は淡々と彼にそう言った。

「正直なこと、言ってもいいですか」彼はそう私に告げた。私はいいよと言って、息を飲んだ。
「結構、かわいい感じじゃないですか。なんでここでバイトしてるのか不思議だったんですよ」彼は真顔でそう言った。私はニヤっと笑って、誤魔化そうとした。少しの間、店内に流れている”雨にぬれても”が時間を支配した。

「今度の週末、遊びに行きませんか?」
「いいよ。休み希望取るね」私は冷静にドキドキした。