汐里はアイスをきれいに食べ終えてごみを片づける。そして足を組んでからおもむろに口を開いた。
「うちのバカが退学になるきっかけになった優勝旗の事件。犯人は生徒会の女の子だって話だけど、私にはそうは思えない」
「どうして」
 ペットボトルのお茶を飲みながら聡は問う。

「修司の見舞いに来たときにその子に会って。前もって達也くんや朱美ちゃんに話は聞いていたけど、とてもそこまでのことができる子だとは思えなかった。金庫から優勝旗を持ち出した実行犯は間違いなくあの子でしょうけど、修司が退学になることまで見越して行動に踏み切れる肝の太さがあるとは、思えなかったんだよね。黒幕は別にいるって思った。計画を考えてあの子に持ちかけた黒幕がね」

「証拠はある?」
「ないよ。だから確認してるの」
 汐里は前屈みになってじとっと聡を見上げる。視界の端でそれがわかったが、聡は彼女と視線を合わせなかった。汐里は身動きもせず聡の返事を待っている。
 じっとりと額に汗が浮かぶのを感じる。さっきアイスを食べていたとはいえ、汐里はどうして涼しい顔をしていられるのだろう。役者が一枚上なことを感じて聡は観念する。

「……首に縄でもかけときゃ良かったって、何度も思ったさ」
「横着者」
 ふうっと息をつき、汐里は姿勢を戻してベンチの背もたれに寄りかかる。
「だから詰めが甘いんだよ」
「……」
 聡は力なく笑って思う。そう、自分はいつもそうなのだ。そして肝心なところで運が悪い。

「話さないのか?」
「言ったでしょ。証拠がないもの。実行犯のあの子に口を割らせるのもかわいそうだし、そんなことしたって意味ないでしょ。もう」
 汐里は目を細めて聡を見やる。
「そこまでして手に入れたかったカノジョに逃げられてんだもの。ザマーミロだよ」
 軽蔑しきった冷たい眼差しも罰というところだろうか。聡は失笑とも何ともつかないものを口元に浮かべて目を上げる。梅雨空の後の晴天は真っ青すぎて目に染みる。夏の日差しが眩しかった。