――修司のことはもういいから。
突き放されたわけではないことは身に染みてわかる。修司のお姉さんが優しい人なのは、立ち聞きしたあの話からも感じ取れた。「嫌いなの」と言いながら気遣ってくれる、根は優しい良い人だ。
生徒会のあの子もそうだった。あんなことをしたけれど、素に戻ってみれば可愛らしい良い子だった。
人の中身は遠目に見ているだけじゃわからない。それは去年の夏に修司と付き合って、朱美や達也たちと遊ぶようになってから感じるようになったことだ。
小学生の頃、クラスの女子の輪に入れなかったことで、郁子は人とコミュニケーションを取ることに苦手意識を持つようになってしまった。でも本当は、あのクラスの女子たちだって、郁子がもっと踏み込んできちんと話をしていたなら、仲良くなれたのかもしれない。
過去の自分の至らなさを思い出して郁子は踵を返す。やっぱり駄目だ。今の自分では駄目なのだ。
このときには自分の病室に戻ったが、夜になり、面会時間の終わりと就寝時刻までの短い間に、郁子は再び修司の病室へと足を進めていた。
修司の病室の扉は閉まっているのに――そういうふうになってしまっているのか――隙間があった。暗い室内に向かって廊下側から光が差し込んでいて、中に誰もいないことがわかる。
「……」
郁子はそうっと扉を開けて中に体を滑り込ませた。ベッドサイドのライトが明るさを下げて点けっぱなしになっている。その明かりの中で。修司の顔色はいっそう白く蝋のように見えた。
「……」
途端に涙の粒が出てきて彼の顔がぼやける。あんなに、力強かった人が、こんな人形のようになってしまって。
――謝るつもりならやめてよね。
けれどやっぱり謝らずにはいられない。このことだけじゃない、いろいろなことを、謝らずにいられない。
「ごめんね……」
もっと、自分が強くてしっかりしていれば良かった。そうすれば、彼がこんなふうになることもなかった。一緒にいない方がいいだなんて言われることもなかった。
「ごめんなさい……」
助けてあげたい。おごりでなくそう思う。好きだからそう思う。だけど今の郁子にその力はない。自分でよくわかってる。
大好きだから離れなくちゃならないこともある。思い知って郁子は泣くことしかできなかった。
突き放されたわけではないことは身に染みてわかる。修司のお姉さんが優しい人なのは、立ち聞きしたあの話からも感じ取れた。「嫌いなの」と言いながら気遣ってくれる、根は優しい良い人だ。
生徒会のあの子もそうだった。あんなことをしたけれど、素に戻ってみれば可愛らしい良い子だった。
人の中身は遠目に見ているだけじゃわからない。それは去年の夏に修司と付き合って、朱美や達也たちと遊ぶようになってから感じるようになったことだ。
小学生の頃、クラスの女子の輪に入れなかったことで、郁子は人とコミュニケーションを取ることに苦手意識を持つようになってしまった。でも本当は、あのクラスの女子たちだって、郁子がもっと踏み込んできちんと話をしていたなら、仲良くなれたのかもしれない。
過去の自分の至らなさを思い出して郁子は踵を返す。やっぱり駄目だ。今の自分では駄目なのだ。
このときには自分の病室に戻ったが、夜になり、面会時間の終わりと就寝時刻までの短い間に、郁子は再び修司の病室へと足を進めていた。
修司の病室の扉は閉まっているのに――そういうふうになってしまっているのか――隙間があった。暗い室内に向かって廊下側から光が差し込んでいて、中に誰もいないことがわかる。
「……」
郁子はそうっと扉を開けて中に体を滑り込ませた。ベッドサイドのライトが明るさを下げて点けっぱなしになっている。その明かりの中で。修司の顔色はいっそう白く蝋のように見えた。
「……」
途端に涙の粒が出てきて彼の顔がぼやける。あんなに、力強かった人が、こんな人形のようになってしまって。
――謝るつもりならやめてよね。
けれどやっぱり謝らずにはいられない。このことだけじゃない、いろいろなことを、謝らずにいられない。
「ごめんね……」
もっと、自分が強くてしっかりしていれば良かった。そうすれば、彼がこんなふうになることもなかった。一緒にいない方がいいだなんて言われることもなかった。
「ごめんなさい……」
助けてあげたい。おごりでなくそう思う。好きだからそう思う。だけど今の郁子にその力はない。自分でよくわかってる。
大好きだから離れなくちゃならないこともある。思い知って郁子は泣くことしかできなかった。