郁子が生垣の中のベンチを示すと、生徒会の彼女は固い表情で郁子の後について来た。ベンチの端と端にそれぞれ腰を下ろす。すぐさま彼女は口を開いた。
「先輩が眠ってる間に一度お見舞いに来たんです。朱美先輩に引っ張られて……。そしたらまた、朱美先輩が、郁子が起きたからちゃんと謝ってこいって……」
 微妙に目を合わせないようにしながら彼女は話しにくそうにしている。優勝旗の事件のとき、すらすら証言してみせた彼女とは別人のようだ。

「謝るって……」
 郁子は目をぱちぱちしてしまう。
「そんな……わたしが入院しちゃったことなら、あのこととは別の問題だし。修司くんが退学しちゃったこととも関係ないし。本当に、わたしだけの問題で……」
 悪いのはむしろ自分で……。そこで郁子は気づいた。
 ――謝るつもりならやめてよね。
 修司のお姉さんはああ言って、郁子を許してくれたのかもしれない。

「謝ることなんかないよ」
「……」
 小さな口を引き結んで、彼女はゆっくりと逸らしていた目線を郁子と合わせた。敵意がなくなったからか刺々しさがない。改めて見ても可愛い子だ。郁子が素直にそう思っていると、彼女ははあーっと長いため息を吐いた。
「私、バカですよね」
「そう?」
「自分でそう思います」
「わたしもだよ」

 郁子がほろ苦く笑うと、彼女は大きな目を更に見開いて郁子を見つめた。
「私のバカと先輩のバカは種類が違うんです」
「うーん、そう言われても……」
「結局、修司先輩はずーっと郁子先輩が好きなんですよね」
 郁子はまた瞬きを繰り返す。彼女は苦笑いして「きれいですね」とくちなしの生垣を見やった。
「……好きじゃなくちゃ、あんなことしないよね」
 郁子はその横顔に問いかける。
「ただの仕返しで、あんなことしないよね。すごく好きだからだよね」

 今度は彼女がぱちぱちと瞬きをした。
「……だから私はバカなんですよ」
「わたしだって、そうだよ」
 彼を独り占めしたくてあんなことをした。それまで何にも執着しなかった郁子が、自分だけのものにしたいと思ったのは修司のことだけ。
「おかしな人ですね。郁子先輩って」
「そうかな」
「だから修司先輩と合うんですね」
「……」
 それが良くないとみんなが言う。郁子もそれはわかっているけれど。