「覚悟を決めるってことだよ。そんで目の前のできることからこつこつこつこつ片づけていく。できることだけでいいんだよ。疲れたらいくらでも休めばいい。そんでまたできることをする。難しいこと考えることないよー。自分のできることを一生懸命やればいいんだ。そうすれば、いつの間にかまわりはきれいに片づいてる。ぱっと良くなるときが来るから」
「……」

「雨の日だろうが、風の日だろうが、無理はしないで自分ができることをすればいい。できることがなければぼんやりしてればいい。好きな相手にもそうだよ。ただ一緒にいればいいんだ」
「本当に……?」
「ただし、覚悟を決めるんだよ」
 それがいちばん難しそうだ。郁子は自信なく微笑んで、ますます花の数を増やしていくくちなしの生垣を見やった。



 一階でエレベーターを待っていると、財布を持って降りてきた女の人が郁子に目を止めた。
「郁子ちゃんだよね」
 呼び止められ、郁子はエレベーターを見送ってその人と向かい合う。
「はい……」
「私、修司の姉です」
 にこっと笑う目元が修司と似ている。意思が強そうな眼差し。自分とは正反対だと郁子は思う。

「寝顔しか知らないのにあれだけど、だいぶ元気になったみたいね」
 自分でもそれは感じる。毎日散歩に出て花を眺めて、おばあちゃんと話しているおかげだろう。検査の結果に問題がなければ退院できると言われている。
「あの……」
 言わなければならないことがあったはずで、郁子はぎゅっとパジャマの裾を握る。
「謝るつもりならやめてよね」
 先回りされて郁子は固まる。

「誘ったのはあなたかもしれないけど、それに乗ったのは修司の自己責任だよ。自分のせいだなんて思わないでほしいな」
 凛とした口振りに、郁子はただ立ち尽くす。
「私ね、人のせいにするの嫌いなの。あいつの行動の責任はあいつにあるし、あなたの行動の責任はあなたにある。それでいいでしょう?」
 そうなのだろうか。そうかもしれないけれど、郁子にはすぐに割り切ることができない。