「…………」
 何か腑に落ちるような、そうではないような心持に囚われて、郁子は口元に握りこぶしを当てた。なんだろう、お腹のあたりがさわさわする。直感的な、何かが。

「……失礼します」
 もうひとり女子生徒が生徒会室に入ってきた。生徒会のメンバーのようだ。さらさらの長い髪に小さな顔。
 郁子の心臓は跳ね上がる。以前修司と付き合っていた二年生の女の子だ。朱美も目を丸くしている。

 当の修司はといえばまったくの知らん振りで、彼女の方も郁子たちの方へはこそとも視線を向けない。
「大体わかったよ。ありがとうな」
 修司が話を切り上げる。
「行こうぜ」
 郁子と朱美を促して彼は生徒会室を出ていく。長机に座ってノートを広げている彼女の脇を通りすぎるときにも、無反応だった。



 今度は相談室の様子を窺いに向かう途中で、先程の元バスケ部メンバーたちと出会ってしまった。
「達也は?」
「あいつはまだ絞られてるよ」
「てめえら、どうせあることないこと並べたててきたんだろッ」
「さっきからうっせえんだよっ。事実を言ってるだけだろう!」
 あくまで喧嘩腰の修司に対して彼らも声を荒げる。

「事実? 証拠もないのによくもそんなこと言えるな」
「達也が部室やコートの周りをしょっちゅうウロウロしてたのは本当だろう!」
「それは……」
 修司は激しく大柄の男子を睨みつける。
「あいつは、バスケが好きだから! それだけのことでどうして疑われなきゃならないんだよ!」

 修司のその声に郁子は悲痛さを感じた。元バスケ部の男子たちも、何か感じたのか互いに顔を見合わせる。
「……とにかく、警察に届けるなりなんなり、後は先生たちが判断するだろ」
 言い捨てて速足で行ってしまった。
「……っきしょう」
「このまま達也が犯人にされちゃうなんてことないよね」
 朱美が不安そうに囁く。お腹のさわさわが胸の辺りまで上がってきて郁子は息が詰まる。

 ――ごめんな。
 達也は修司の親友で。
 ――あいつをあんたに任せるよ、なんて言えればカッコいいんだろうけど……。
 友だち思いの優しい人で。達也が悲しい目にあえば、修司もきっと傷つく。

「…………」
 かあっと喉元にまた熱いものがせり上がってくるのを感じて郁子は叫ぶ。
「わたし、行ってくる。ふたりは待ってて」
「どこに!?」
「行ってくる!」
 呆然とする修司と朱美を残し、生徒会室へと郁子は駆け戻ったのだった。