大通りをひたすらまっすぐ歩いていくと、つきあたりに港が見えてきた。薄暗がりの中でフォークリフトやトラックが動いているのが遠目に確認できる。修司と郁子は路地のひとつを曲がって港の右側へと逸れた。

 大通りを離れるとそこは住宅街で、明け方の冷ややかな空気の中でしんと静まり返っていた。
 夜明け前のほの明るい闇の中、新聞配達のバイクの音が聞こえてきたり庭先の犬小屋の犬に吠えられたりするたび、こそこそとまた路地を曲がっていく。
 笑いをかみ殺してお互いに手を引きあいながら逃げ惑うのが、とても楽しかった。


     *     *     *


 柄にもなくはしゃいだりしなければ良かった。池のそばで聡を待ちながら郁子は後悔していた。

 ひとりで元旦を迎え、テレビをつけても笑えないワイドショーばかり。郁子にしてみればいつもと変わらない日だというのに、世の中はいつもと変わることをやらせたがる。
 イライラしていつも通りにしてやろうとコンビニに出かけた。お餅やおせちは絶対に食べない。いつも通り肉まんだ。

 ところが初詣に行くという聡と会って、そんな反抗心は急激にしぼんでしまった。
 初詣に行くのも悪くない。賑やかな場所に行くのも。おみくじを引くのも。それで聡に凶を引かせてしまった。悪いことをしたな、と思う。
 聡に限ってこんなことに影響されたりしない。自分が責任を感じたりするのは、それはそれでおこがましい。

 ふうっと郁子はため息をつく。どうにも今の自分は感情の起伏が激しい。それは自分でもよくわかる。
 修司のことを気にしてしまう自分に落ち込んで、朱美に友だちと言われて喜んで。
 元旦にひとりな自分に苛立って、聡と出かけることにはしゃいで。

 急に疲れを感じて郁子はうなだれる。
 その頭のてっぺんに人の気配を感じる。若者の一団が並んだまま無理矢理人垣の隙間を通り抜けようとしている。郁子は少しでも避けようと足を後ろにずらす。
 右足のかかとが露出した木の根っこを踏み外してがくりと体が下がる。かかとの先はもう池の際だ。踏ん張りようがない、落ちる……。

「あっぶねっ」
 落ちなかった。左腕の肘のあたりをぐいっと引っ張られ、その腕にすがりながら郁子は体勢を立て直す。
「気をつけろ」
「う、うん……」
 どうして修司がここにいるのだろう。池に落ちそうになったのとは別の衝撃で郁子の心臓は委縮する。