住宅街を抜けて国道を渡る。距離の長い横断歩道の半ばで歩行者信号の青色が点滅する。
 修司が郁子の手を引いて走る。深夜の国道はトラックが多い。その前を通るときふたりの姿を見とがめられないかと緊張した。

 今度は両側に店舗が並ぶ大通りを手をつないだまま歩いた。明るいコンビニや居酒屋の前を通るときにはやっぱり心配になる。
 そんな郁子をよそに、修司は堂々としている。やがて郁子も肩の力を抜いた。

 そうだ、今更何も心配することなどない。郁子にあるのは、この手のひらだけ。そっと力を込めると、修司もぎゅっと握り返してくれた。


     *     *     *


 朱美がものすごい形相で郁子のところにやって来たのは、修司と付き合い始めた、と彼女自身が告げたのと同じ週の放課後のことだった。

「アイツ最悪だよ、サイアク!」
 学校の近くの児童公園。鉄棒の支柱をがんがん蹴りつけながら朱美は何度も修司を罵った。
「自分が寂しいのかなんなのか知らないけど、オンナ利用してんじゃねーよってはたいてやったから!」
 朱美の憤りに対して完全に同意もできず、郁子は不自然に頬を引き上げることしかできなかった。

「あー、ムカつく。当分アイツに近づきたくない」
 言葉通り、翌日から朱美たち女子グループを修司のそばで見かけなくなった。代わりのように、翌週には一年生の派手な女の子が修司の隣に居座るようになった。
 朱美たちに敬遠されたことに戸惑っているのか、修司のそばにはいるものの達也が微妙な表情でいることが遠目にもわかった。

 そんなことを気にしても仕方ない。自分には関係のない人だ。そうは思っても郁子は修司の様子が気になってしまう。ふとしたときに視線が引き寄せられる。
 そういうとき、修司と目が合ってしまうことがあった。修司も引っ張られるように郁子と同時に目を上げて、視線が絡む。

 そういうとき、郁子は目を逸らすことができなくて困った。修司の静かな視線からは何も読み取れない。だけど、郁子の気持ちはもしかしたら導火線のように伝わってしまっているのだろうか。
 ふっと修司が目線を下げて、いつもそれは終わる。それを残念に思ってしまう自分のことが、郁子はとても嫌だった。