嘘だ。今頃母親はいつものように食事の支度をして聡を待っているだろう。
「ひとりじゃなんだし、おまえんちで一緒に食べていいか?」
「……」
 郁子は目をぱちぱちさせて数秒黙った後、
「うん。いいよ」
 頷いてくれた。
 聡は肘で郁子を突っついて促す。
「どれが美味いのか教えろ」
「えーとね……これ、ハンバーグの。わたしも今日はこれにしようかな」

 小遣いで弁当とお茶を買って郁子の家まで行った。広々としたリビングでテレビのバラエティー番組を見ながらふたりで弁当を食べた。
 聡はその後家に帰って、満腹の腹をこっそり押えながら母親が作った夕飯も食べた。

「今日は遅かったじゃない。お味噌汁あっため直したんだから」
 ぷりぷり怒っている母親に、友人たちの名前を挙げて部活の話をしていたんだと言い訳をする。
「今度そいつらと帰りにハンバーガーとか食べに行ってもいい?」
「えええ?」
 鼻に皺を寄せて考えた後、母親はまあいいかと頷く。
「そういうことがしたい頃だよねえ。父さんにも牛丼でも食べてきてもらえばそれですむし。いいよ、そういうときには前もってちゃんと言ってよ。帰りが遅くならないようにね」



 そうして週に一度は郁子の家で一緒にコンビニ弁当を食べるようになった。
「こんなの食べ飽きちゃって美味しくないと思ってたけど、誰かと一緒に食べるとまた違うんだね」
 郁子がそうっと言うのを聞いて、聡は胸が熱いのか痛いのかよくわからない気持ちになった。
 自分がしていることは郁子にとって悪いことなんかじゃないと思った。聡自身、楽しくて仕方なくて。

 けれどそれは長くは続かなかった。いつしか夕暮れのコンビニで郁子の姿を見かけることはなくなった。
「おばさん、早く帰ってくるようになったのか?」
 学校で出会ったときに訊いてみると、
「うん……」
 最初にコンビニで見かけたときのような沈んだ様子で郁子は返事をする。

「買い弁はもうお終いか」
 聡自身つまらない気持ちでつぶやくと、郁子も頷いた。
「ご飯は家でお母さんと食べてるよ」
 ちっとも嬉しくない様子で。