「だめ────!」

太陽の光を遮断した瞼の裏で、そんな声を聞いた気がした。
その刹那、強い衝撃とともに身体が地面に叩きつけられる。
うっ、と小さな呻きが口から洩れた。


……死んだのか?
僕はちゃんと死ねただろうか。


微かな希望を胸にして、そろりと重い瞼を上げる。だが、視界では、予想だにしなかった人物が僕の顔を覗き込んでいた。

「何やってるの!?君、自分が何しようとしてたのか分かってる!?」
「は……?」

僕の目に映るのは、人形のような容姿をした可愛らしい少女だった。彼女は大きな目からぽろぽろといくつもの涙を流して必死に訴えている。

「なんで自分で命を絶とうとするの?だめだよ、命は大切にしないといけないんだよ!生きたくても生きれなかった人は、この世にたくさんいるんだから……!」
「……えーと」

予想外の展開に困惑する。そろりと辺りを見回すと、先程越えたはずのフェンスが目に入った。

つまり僕は……彼女に助けられたということ。

いや、僕は死のうとしていたわけだから、邪魔されたと言ってもいいだろう。そうしてふと疑問が浮かぶ。

「あの……もしかしてなんですけど。僕をフェンスの向こう側からこっちに戻したのって、君ですか」

もしかしてだ。万一の可能性を考えて訊いたまでだ。
普通に考えて、現役男子高校生の身体を持ち上げて戻すなんて行為、華奢な彼女には不可能なことくらい分かっている。
けれど彼女は泣き顔から一変、にこりと笑い、あっさり頷いた。

「そうだよ。私が君をここまで」
「は……?うそ、だろ」
「嘘じゃないよ。みんなによく驚かれるんだけどね。私こう見えて結構力あるんだよ?」

腕の筋肉を見せるようなポーズをとる彼女に唖然としてしまう。
僕は年相応の身長と体重だから、小柄ということは全くない。それなのに、彼女の細い身体で本当に僕をここまで戻したのだろうか。
理解しかねる事実に頭を抱えつつ、彼女の姿を今一度確認する。

華奢な肩に、半袖の制服から伸びる細くて雪のように白い手足。
頬はふっくらしていて女の子らしさを感じさせるけれど、顎周りはスッキリとしていて輪郭がはっきりしている。
色素の薄い大きな目、スッと鼻筋が通った鼻、薄くて潤いのある唇。

クラスの男子たちが「可愛い」とこぞって言いそうな顔のつくりをしている彼女は、にこっと花が咲いたように笑った。
泣いたり怒ったり、叫んだり笑ったり。表情がくるくる変わるところも、きっと彼女の魅力なのだろう。