僕は犬のウンコだけど、特殊能力を持っている

「あぁ、覚悟を決めたんだ」
「お前それでいいのか?」
「あぁ」
「後悔しないんだな」
 そう言うと久保田はやっと帰っていった。あの帰り方を見ると付き合うのが典子だと勘違いしているのは明白だが、今それを否定している時間はない。
『一刻も早く寝なくては…』
 豪介は気持ちが焦り出した。ただ、焦ってしまうと眠気が襲ってこない。なるべく気持ちを沈め睡魔がやってくるのを待つ。布団が気持ちいい。さすがに昨日一睡もしていなかった効果は抜群だ。いい感じに体が重くなっていく。意識がぼんやりとして、スゥーと、今度こそ遠くなっていく…。
『蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…、蔵持銀治郎…』

 小さな光の点がグワァッと大きくなると、目の前に優斗がいた。ということは、予定通り銀治郎と繋がったようだ。銀治郎達は学校のプールのそば、大きな桜の樹の下にいた。ここは滅多に人が来ない場所だ。遠くから部活の声が届いてくる。
「お前、緊張してねぇか」優斗の声だ。
「バァカ、オレが緊張するかよ」
「おっ、来たぜ」
 銀治郎が視線を動かすと、向こうから小林美咲と牧園ゆかりさんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。
『間に合った。告白は今からだ』
 銀治郎の視線は牧園さんに固定されている。それにしては牧園さんは可愛い。
『美咲も美人だが、やはり牧園さんは別格だ。違う違う、今はそんなことを考えている場合じゃない…』
 美咲が桜の木の下に牧園さんを連れてきた。
「それじゃ、二人で話してね」と言って美咲と優斗がこの場を離れた。
 牧園さんの表情からは喜んでいるのか、戸惑っているのか、迷惑しているのか、緊張しているのか読み取ることが出来ない。二人は目を合わせている。豪介は自分がドキドキしてくるのを感じた。あまり興奮すると目が覚めてしまいそうだ。
『これではまるで僕が告白するみたいだ』
 そよ風が木々を揺らしたのだろう、桜の葉のざわめきが聞こえる。でも、この二人の周りだけ空気が張り詰めて動かない。緊張している。
『少なくとも、僕が緊張している』