その3時間目が終わると美咲がニコニコしながら銀治郎の席にやってきた。当然のように優斗もやってくる。豪介は慌てて机に突っ伏して全神経を耳に集中した。
『どっちなんだ、彼氏がいるのか、いないのか…』
 自分の心臓の音がドキドキ聞こえるほど緊張する。
『果たして…、どっちだ…』
「今、彼氏いないって。チャンス!」
 確かに聞き取れた。彼氏はいない。となんだかちょっとホッとした。まるでこの感覚はテレビに出ている芸能人に彼氏がいないことでホッとするのと同じだ。でもこれで堂々と銀治郎が告白する。あの、顔だけがいい性格最悪の女遊び野郎が…。それを思うと気持ちが焦りどうしていいかわからないイライラした感情が湧き上がってくる。
 その時、「土曜日に直接言うわ」という銀治郎の声が聞こえた。土曜日に銀治郎のバカが牧園さんに告白する。今日が金曜日だから、明日だ。明日告白する。
「えっ、直接?」と、優斗が銀治郎に確認する。
「そうだよ」
「銀治郎ってすごいよな、携帯でいいじゃん」
「バカだなぁ、俺が付き合おうぜって言うだろ、その時の女子の顔って最高なんだよ。信じられない。って顔してよ。まるで世界が終わってもいいって顔するんだよ。あの顔を見るのが好きなんだよ」
「うわぁ、銀治郎君ってSなんだぁ。ちょっと引くぅ」と言って美咲が笑った。
 銀治郎が牧園さんの彼氏になるかもしない…。銀治郎はあんなやつなのに、「やらせてくれなくてさぁ」なんていうやつなのに…。
『ダメだ、ダメだ、ダメだ!』
 自分の気持ちのざわつきを抑えられない。手が微かに震え、目の前がキュッーと狭まって行く感じがする。
『どうしたらいい、何ができる? 僕に何かできることはあるか? 銀治郎みたいなやつから牧園さんを守るのは僕の役目なんだ!』
 今日も早く帰って寝なくては。
『くっそー、こんな時に、僕は寝ることしかできないのか…。しかも、寝ても守ることができないじゃないか…』
 指を咥えて見ていることしかできない。自分の無力さに心がちぎれる思いがする。